続・「IoT」時代の期待と懸念Weekly Memo

あらゆるモノがインターネットにつながる「IoT(Internet of Things)」の市場が広がりつつある。しかし一方で、懸念される点も見えてきた。最新の調査を基に考察したい。

» 2014年08月18日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

急成長が見込まれる国内IoT市場

 IoTについては、本コラムでも以前に「IoT時代の期待と懸念」(2014年1月14掲載)と題して取り上げたが、ここにきて興味深い調査結果がいくつか出てきたので、今回は続編としてあらためて最新動向をまとめてみたい。

 まずは、IDC Japanが8月7日に発表した国内IoT市場予測から。同社が国内IoT市場予測を行うのはこれが初めてだ。それによると、2013年の国内IoT市場の売上規模は11兆1240億円、同年のIoTデバイス普及台数は4億9500万台と算出。2013年〜2018年の年間平均成長率は13.7%で、2018年にはほぼ倍増の21兆1240億円に達すると予測している。(図1)

図1 国内IoT市場の売上規模の実績と予測(2013年は実績、2014年以降は予測、出典:IDC Japan) 図1 国内IoT市場の売上規模の実績と予測(2013年は実績、2014年以降は予測、出典:IDC Japan)

 IDCはこの発表の中で、IoTを「IP接続による通信を、人の介在なしにローカルまたはグローバルに行うことができる識別可能なエッジデバイス(モノ)からなるネットワークのネットワーク(つながり)」と定義している。

 その上でIoT市場のサービススタックを、システム/デバイス、コネクティビティ、プラットフォーム、アナリティクス、アプリケーションの5つのレイヤに分けて捉え、それらにプロフェッショナルサービス市場とセキュリティ市場を加えたものをIoT市場としている。

 IDCによるIoT市場の定義については、先に挙げた本コラムでも引用したが、今回はさらに詳細な表現となっている。それは取りも直さず、IoT市場の全容が見えるようになってきたということだろう。

 IDCでは、国内IoT市場が急速に成長している背景として、IoTサービススタックを提供する事業者サイドにおいて、事業者の垂直/水平連携の加速、事業者の調達コスト/提供価格の低下、技術の飛躍的な発達とその活用先の多様化、技術標準化/法規制の進展と周辺環境の整備といったさまざまな成長促進要因が影響していると見ている。

 また、同社が行ったIoTサービスの利用者動向を調べる企業ユーザー調査からも、IoTを利用する企業の業種が従来と比べて非常に多様化してきていることが判明。その用途も自社内の業務効率化などを中心とした内部用途だけでなく、自社顧客に提供するサービス付加価値向上などを中心とした外部用途で利用するケースが数多いことが分かったという。

IoTデバイスの70%にセキュリティ問題

 こうした成長が見込まれるIoT市場だが、一方で最近、気になる調査結果も出てきた。米HPが7月29日に発表したIoT関連デバイスのセキュリティに関する調査結果によると、調査対象デバイスの70%に問題が見つかったという。

 HPのセキュリティサービスを通じて行われた同調査では、テレビ、Webカメラ、サーモスタット、リモート電源管理ユニット、スプリンクラー制御装置、ドアロック、住宅用警報機などの普及度が高いIoT関連デバイスについて、クラウドアプリケーションやモバイルアプリケーションも含めてセキュリティレベルを調べたという。

 その結果、デバイスの80%がプライバシー上に問題があったり、簡単なパスワードで利用できてしまったりした。また、インターネットとローカルネットワークの間での通信が暗号化されていないデバイスが70%あった。さらに、ソフトウェアアップデートを取得する際に暗号化していないデバイスも60%あったという。

 こうした状況についてHPは、IoTはビジネスや生活にさまざまな価値を生み出す可能性がある一方で、対象となるデバイスの70%にセキュリティ上の問題があるとなると、さまざまな攻撃にさらされる危険性が非常に高くなる。デバイスや関連するアプリケーションのメーカーはさらにセキュリティに注意を払う必要がある、と警鐘を鳴らしている。

 この点については、日本のデバイスについてはもっとセキュリティレベルが高いのではないかと見る向きもあるが、いずれにしてもこれからはIoTに対してこうした視点を持つことが肝要だろう。

図2 生活者情報の活用に関する期待と不安について(出典:日立製作所・博報堂) 図2 生活者情報の活用に関する期待と不安について(出典:日立製作所・博報堂)

 もう1つ、IoTがもたらすビッグデータの活用に関する調査結果を挙げておきたい。日立製作所と博報堂が8月4日に発表したビッグデータで取り扱う生活者情報に関する意識調査によると、図2のように「期待」(左側の棒グラフ2つの合計21.7%)よりも「不安」(右側の棒グラフ2つの合計48.8%)を感じている人が多いことが分かった。

 両社では2013年にも同様の調査を行っているが、不安を感じる人の割合は1年前よりも約10ポイント増えており、その大半の理由はプライバシーの侵害に不安を覚えるとのことだった。

 この調査はビッグデータで取り扱う生活者情報を対象としていることから、必ずしもIoTがもたらすものがすべて当てはまるわけではないが、それでもこの不安の広がりようはIoTの進展とも大いに関わりがあると見ていいだろう。

 IoTの進展に伴って懸念されるのは、セキュリティ上の脅威がこれまでのレベルを遥かに超えると考えられることだ。ダメージを与えたり盗み取ったりするだけでなく、仕組みや仕掛けそのものを変えて、それこそ社会全体を恐怖に陥れることも可能になる。IoTによってさまざまな価値が生み出されるのは間違いないが、同時に安全性をどう担保していくか。あらためてこの点を強く訴えておきたい。

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