AppleとMicrosoftのオープンソース戦略がコミュニティーに支持される理由Computer Weekly

オープンソースコミュニティーとの協力関係を模索するAppleとMicrosoftの戦略は、好意的に受け止められている。企業利益のためであることを隠さない両社が受け入れられ、開発者が集まる理由とは?

» 2016年07月20日 10時00分 公開
[Cliff SaranComputer Weekly]
Computer Weekly

 Appleに愛着を持つ開発者は多いようだ。どこの開発者向けカンファレンスに出掛けても、登壇者が持っているコンピュータにはAppleのロゴがステータスシンボルであるかのように輝いている。そして今、その愛がついに報われる時が来たのかもしれない。

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 オープンソースコードのリポジトリコミュニティー「GitHub」の共同設立者兼CEO、クリス・ワンストラス氏は、アムステルダムで2016年5月に開催されたカンファレンス「GitHub Satellite」に登壇。Appleがオープンソースを正式に支持することを示す施策が近いうちに始動すると参加者たちに語った。Appleが以前からGitHubに貢献していることを同氏は特に強調し、開発者の働き方に新たな選択肢が加わったことを示す良い例だと語った。

 「オープンソースは単なるイデオロギーではない。ソフトウェアを構築するための優れた手段だ。今や企業もオープンソースの利点に注目している」と同氏は語る。

 ワンストラス氏は、Appleが新しいプログラミング言語である「Swift」をオープンソースコミュニティーで普及させたいとGitHubにアプローチしてきたことは非常に印象深いとして、次のように話す。「AppleのSwiftは新しいタイプのオープンソースプロジェクトだといえる。すばらしいコミュニティーで優れたオープンソーススタンダードを定義する、すばらしいプロジェクトだ」

 例えばAppleは、このプロジェクトへの参加を希望する人向けに「行動規範」を制定・発表した。その規範には次のような記述がある。「Swift.orgコミュニティーの目的はただ1つ、世界一の汎用(はんよう)プログラミング言語を作り上げることです。参加を希望する皆さんの力を結集して、言語を一から築いていきましょう」

 AppleはSwiftコミュニティーと提携して、この言語に新しい機能を追加するとともに、できるだけ多くのプラットフォームをサポートし、この言語を利用する開発者を増やしていきたいと公式に表明している。

 GitHubのSwiftプロジェクトのページには、Swiftについて次のような記述がある。「これは、高性能なシステムプログラミング言語である。構文は簡潔かつモダンであり、既存のC言語およびObjective-Cのコードとフレームワークにシームレスなアクセスを提供する。またデフォルトでは、メモリに常駐することはない」

 本質的に、Swiftは「macOS」「iOS」「Linux」用のプログラミング言語だ。「Windows」や「Android」に対応するバージョンは現時点では存在しない。この言語を使って作成したコードは、Appleが「ランタイムライブラリ例外」と呼ぶApache 2.0のライセンスに従って使用許可が与えられる。GitHubのサイトには、以下の記述もある。「これによって、Swiftを使って自作のバイナリをビルド、配布する際の属性の要件は除外される」。つまり、Swiftランタイムを使って構築したアプリの所有権は開発者自身に留保される。

 Swiftプロジェクトの参加者リストには、Appleの社員が多数含まれているが、PayPalやDropboxなどの企業、さらには幾つかの教育機関のメールアドレスも少なからず見受けられる。このプロジェクトが幅広い層から支持されていることがうかがえる。

 これについてワンストラス氏は、次のように説明する。「Appleという会社は事業目標を率直に公表する社風があり、ひそかに施策を進めるタイプではない。AppleがプログラミングプラットフォームとしてSwiftを成功させようとしているのは『iPhone』の販促拡大策の一環であることも皆が察している。このエコシステムに従いながら生計を立てることを望む開発者として、私はそれでも構わないと思っている」

Microsoftまでもがオープンソースに参加

 一方Microsoftも同様の施策を進めており、.NETをオープンソースコミュニティーに公開した。AppleやMicrosoftといったハイテク業界の最大手がオープンソースに貢献したいと申し出るのは、これらの企業の施策をコミュニティーに押し付けることをもくろんでいるのではないかと不安を感じる向きもあるだろう。しかし、企業がオープンソースに参入する傾向は必ずしも悪いことではないとワンストラス氏は主張する。

 同氏はその理由を次のように説明する。「大企業の狙いは、今やるべき正しいことを実行するという点でわれわれと一致している。正しいことを実行すると結果として収益が上がることに気づいた企業も多い」

 ワンストラス氏によると、オープンソースが現状に至る以前は、営利目的の企業が参入し、特定の方向にプロジェクトを誘導しようと試みていた時期もあった。だが、もはやその段階は過ぎたという。むしろ今後は、コミュニティーの方から事業目標を明確に表明する企業を支援するようになるだろうと同氏は話す。

 .NETをオープンソースとしてリリースした際、Microsoftはそのコードによって実現したい事業目標のロードマップを設定していた。「Linux上で.NETを実行するのも、その目標の1つだ。これが実現すると、Microsoft製のソフトウェアを使う開発者が増え、ひいてはクラウドサービスである『Microsoft Azure』の(課金による)売り上げも増えることになる。そこで当コミュニティーでは、Linux上で.NETが実行できるようにした」と同氏は話す。

 「.NETをLinux上で動作するようにして売り上げを伸ばしたいという事業目標や狙いをMicrosoftがオープンな態度で表明すれば、それが実現すれば有料でも購入するという開発者が多数現れ、同社に協力してプロジェクトを前進させてくれるだろう」

 囲い込みと閉鎖的な性質を継続しているプラットフォームは衰退の一途をたどっているとワンストラス氏は主張する。「Microsoftがオープン性を高めているのには理由がある。ヒッピーのような人物がその施策を進めているからではなく、オープンにすることが事業戦略としてより適切だからだ」。この事情は、明らかにAppleにも当てはまる。

 ソフトウェアプラットフォームは、その利用者である開発者の数が増えれば、それに比例して成功の確率も高まる。Appleは世界でも最高の開発者を同社に引き付けて、斬新なアプリやデスクトップアプリケーションを作ってもらうことを希望しているのは明らかだ。最新のiPhone、「Apple Watch」「MacBook」などのデバイスを売り出す材料としてそれを使うためだ。

 コミュニティー内では、自由形態のオープン性を固持したいグループと、商業的な思惑を持つグループの駆け引きが今後発生するかもしれない。AppleやMicrosoftなどの企業からコミュニティーに参加する動機が、自社の利益のためとなるのはある程度避けられないことだろう。なぜなら現在の企業にとって、オープンソースは多くの開発者にアピールするという面で企業単独のキャンペーンより有効な手段だからだ。それに少なくとも当面は、オープンソースコミュニティーも大企業からの参加によって利益を得ている。

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