昨日に引き続き、今日の「時事日想」は日本通信CFO、福田尚久氏のインタビューをお届けする。
MVNOという立場を活かし、PHS+無線LANサービスの「bモバイル」や「bモバイルhours」などユニークなコンシューマー向けパッケージを販売している日本通信。しかし、同社の「顧客に合わせた通信のパッケージング」という柔軟性がさらに生きるのが、法人向けのモバイル情報サービスだ。
これまで企業での携帯電話・PHSの導入というと、コンシューマー向けの製品やサービスを使い、料金プランで特色を出すというケースがほとんどだった。Java//BREWアプリやフルブラウザを使い、企業個別の情報サービスにあわせたシステム構築をするという動きが出てきたのは、最近のことである。
日本通信では事業開始の2001年当初から「パッケージの押しつけ」ではなく、法人ニーズにあわせた「パッケージのカスタマイズ」に重点を置いてきた。いわば、サービスのオーダーメイドである。この中で重要だったが、前編でも登場した顧客のニーズをフィードバックする体制だ。
「我々はコールセンターを正社員で構築していますから、(法人の)エンドユーザーの不満というものが把握できます。そこから情報システム部の方と一緒に、不満を解消するための新技術導入などが進められます。むろん、法人サービス開始当初は試行錯誤の段階で、1年目は96個もの新サービスを作ったんですよ」(福田氏)
むろん、当時から法人向けデータ通信の基本サービスはあったのだが、ユーザーからのフィードバックをもとに次々と新技術・新サービスを導入。それがふくらんで、96もの数になったという。
「1週間に2つのペースですね(笑)。このとき決めたのが、『収益計算をしない』『1社でもお客様のニーズがあれば(新サービスを)作る』ということです。なぜこんなことをしたかというと、ひとりでもお客様のニーズがあれば、そのニーズは他(の顧客)にもあるはずだという信念があったからです。
(2001年)当時、従来型のキャリアは通信の土管を売るだけで、企業ごとのニーズに個別のサービスを売ることなんて考えていなかったわけですね。我々は、きちんと法人ニーズに向き合っていこうと考えました」(福田氏)
このような場合、マーケットリサーチや顧客ヒアリングの結果をもとに公約数的なサービスをあらかじめ開発するのが常套手段だ。しかしこの手法を、福田氏は否定する。
「まったくの手探りの場合、あいまいなリサーチ結果やデータをもとにサービス提供者側の思いこみで開発するよりも、顧客の個別ニーズに応えた方が確実です。なぜならそこに1つのニーズはあり、目の前のお客様は満足するわけですから」(福田氏)
顧客ニーズへの個別対応をすることで、法人のデータ通信サービス市場でどのようなニーズがあるかを把握し、それに向けたサービスも蓄積。現在では7つほどの基本サービスをもとにカスタマイズしていく体制になった。
法人向けデータ通信市場を見た場合、今年のキーワードはずばり「セキュリティ」だ。個人情報保護法施行前の2月1日、日本通信では新たなサービス「Secure PB」を投入している(1月20日の記事参照)。セキュリティを重視したサービスが数ある中で、MVNOである日本通信の特徴をサービスに出せたのだろうか。
「まず今のニーズは何かというと、外で働く社員が直行・直帰できるようにしたいということです。(生産性を高めるために)直行・直帰をさせる時に、社員が最も利用する場所は『家』なんです。そう考えると、別にPHSや3G携帯電話をインフラで使う必要はない。ADSLなどブロードバンドインフラがあるわけですから」(福田氏)
セキュリティの本質的な問題は、会社とVPNで接続する際に、ホームブロードバンドからPHS、公衆無線LANなど様々な通信環境からインターネット経由で接続するところにある。法人向けのセキュリティで重要なのは、特定の通信インフラだけを安全にするのではなく、ユーザーの利用が想定されるすべての通信インフラでの安全を確保すること、と福田氏は話す。
Secure PBではユーザーの利用環境に応じてセキュリティポリシーを切り替え、そのロケーションに最適かつ必要な安全を確保する。これは日本通信の提供するPHS+公衆無線LANアクセス以外の、ホームブロードバンドや宿泊先ホテルのブロードバンド環境などを使った場合も有効だという。エンドユーザーは専用のクライアントソフト(起動時に常駐)を立ち上げておくだけでいい。
「またSecure PBでは、ユーザーごとの個別権限を、情報システム部から一括でコントロールできます。例えば、ある社員の役職が上がった、部署が代わったなどの異動があった場合、センター側からの操作でクライアントPCのアクセス権限や使用できる機能が変えられます。社外や地方営業拠点などで働く人たちの情報権限管理をリモートで行えるというのは、ITサービスを会社の業務全般に広げていく上で極めて重要です」(福田氏)
製薬会社のMR(医療情報担当者)や各種メンテナンス事業者のフィールドワーカーのように、多くの社員が全国に散らばって仕事をする業種は多い。そこにITシステムを導入し、生産性をあげるには、Secure PBのように統合的な安全・管理ができる仕組みが必要だという。
MVNOはインフラを持たない。これは通信事業者として弱みであるように見えるが、福田氏は逆だと断言する。
「インフラがないのは強みですよ。だってインフラを作ってしまったら、お客様のニーズがどうあろうと、そのインフラを売らなければならない。例えばドコモさんは、FOMAインフラに巨額の投資をしてしまったんだから、FOMAを売るしかないんですよ。しかし、顧客のニーズに向き合うという(サービス事業者の)本質に立ち返った時、インフラありきの体制でいいのか、ということになる」(福田氏)
コンピューター業界でも、SI事業者はメーカーから分離していた方が顧客の信頼を得られるようになってきている。これはメーカーという「作り手」の論理から離れて、公平な立場で最良のシステムを提案できるからだ。同様のことが、今後、モバイルでも起きてくるという。
「サービス事業者の基本は『インフラを持ってはいけない』だと思います。だってお客様の声を忠実に聞けないですから。インフラがあると、そのインフラを売るというストーリーができあがった状態でビジネスをする事になりますからね。これは供給側の発想です」(福田氏)
かつて、コミュニケーションのサービスが「電話だけ」の時代ならば、供給者側が提供するひとつのインフラが、すべての顧客のニーズと合致していた。しかしインターネット登場以後は、顧客ニーズが多様化・分裂していく状況にある。インフラを持つ会社は「インフラありき」のサービス提供形態から抜け出すのが難しく、細分化されたニーズにきめ細かく対応するのが難しい。これは法人市場で特に言えることだが、コンシューマー市場も無関係とは言えない傾向だ。
顧客ニーズがインフラからサービスに移り始めた今、日本通信のように「インフラを持たないキャリア」、MVNOの存在感や必要性が大きくなるのかもしれない。
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