最近、ネット上で映像を配信するサイトが急増している。わざわざレンタルビデオ店に行かなくても、ブロードバンド環境があれば自宅にいながら好きな作品を好きなときに見られる……そんなユーザーにとって夢のような環境が整いつつあるように見えるが、実際に配信中のタイトルラインアップを見ると、配信実験用に作られたコンテンツも少なくない。「観たい!」と思わせる番組が配信されていないのだ。
そんな中、民放テレビ局3社が設立したブロードバンドコンテンツ配信会社であるトレソーラが、9月1日〜11月30日にかけて「Chance!@トレソーラ」というイベントを行うと発表した。これは、トレソーラの親会社が持つ、過去に放映した人気ドラマやスポーツ、バラエティ番組などを定額料金で配信するというもの。トレソーラの原田俊明社長は「いままでメジャーなタイトルはブロードバンドに流れなかった。だったらわれわれでなんとかそれをやってみようと思った」と、これまでにない大規模な映像配信への意気込みを語る。だが、一方で「今回の番組配信はイベントとして行うが、ビジネストライアル的な部分も強い」という。テレビ番組の場合、過去の番組であっても権利処理が非常に複雑で、ネットでそれを流すためのルールがまだ整っていないためだ。Chance!@トレソーラはそうしたルール作りのための試金石ともいえる。
一方、映画業界は長編映画の配信をどのように考えているのだろうか?
マンション向けにVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスを開始しているギャガ・コミュニケーションズの専務取締役、丸茂日穂氏は「VODは消費者にとって理想的な形だと思うが、それをネット上で実現させようとすると、セキュリティや収益面で難しい部分も多い」と語る。確かに、ブロードバンドで映画を配信したときに料金を1人300円徴収したとしても、3万人しかパイがなければ売上は1000万円にも満たない。それ以前に、映画の版権の販売額は通常「視聴者数×○○円」という形で決まるのではなく、一括で「最低保証金」を支払ってもらうビジネスモデルとなっている。「映画は露出するたびにその版権価値が下がる。映画の場合、劇場→ビデオ→PPV→地上波テレビというビジネスモデルが確立しているので、現状ではどの段階でネットを入れるか見極めが難しい」(丸茂氏)
映像配信は著作権、権利配分、ビジネス性という点で越えなければならない壁が多く、全国の映画館で上映されるようなハリウッド作品がネットに登場するのは現状では難しい。だが、そうした壁はユーザーの絶対数が増えればいずれ解決される問題でもあるだろう。ADSLが爆発的に普及したようにユーザーのニーズが一気に高まれば、映像を「ユビキタス」で楽しめる時代が来るのも、そう遠い未来ではなさそうだ。
■ShowTime www.showtime.jp/cinema ShowTimeでは第69回アカデミー賞で主演男優賞を受賞した映画『シャイン』のオンデマンド配信を8月に開始。1995年製作のオーストラリア映画で、天才ピアニスト、デヴィッド・ヘルフゴットの半生を描いた作品。料金は300円
■トレソーラ www.tresola.com ドラマ、歌番組、ドキュメンタリー、スポーツなど毎月50〜60本程度の番組が配信され、月額1000円(税別)で見放題(ベーシックパック)