ネットカウンセリング普及の兆し リストラや人間関係で悩む人々を救うことはできるか？

お風呂あがりにふと気づけば、パソコンの前に座り“ミッチ”の名で悩みを書き込む自分がいる。それまで頭がパニック状態だったのに、書いたものを見ると『あれ？　私ってこの程度のことで悩んでいたんだ』と気持ちが軽くなることもある」と語るのは、月3回はネットカウンセリングを利用するという29歳の女性Aさん。

　日本初のカウンセリングサイト「ピースマインド」が登場したのは98年9月。同社・代表取締役の荻原国啓氏は、「相談者が名前や顔を明かさなくていいネットならではの匿名性は、“恥”の文化を持つ日本人にこそ向いている」と考え立ち上げた。約4万人の会員の大半は、20代半ば〜30代半ばの働く女性。相談内容は、職場の人間関係や自身の性格、恋愛相談など幅広い。

　一般にいわれるネットカウンセリングのメリットは主に3つ。1つは荻原氏が言う“匿名性”。2つ目は、相談内容とそれに対するカウンセラーの返答を、相談者自身が時系列で確認できること。3つ目は、夜間や遠方でも相談を書き込めることだ。数年前からネットでもカウンセリングを行う臨床心理士の岩城勇氏は言う。「相談者に多い1つの傾向は“孤独”。対面カウンセリングの場はまだ都市部にしかないが、実は地方で暮らす孤独な単身赴任のサラリーマンなどにこそ需要がある。地域性を問わない点も、ネットの大きなメリット」

　企業も、社員の“心”の問題に気を配り始めた。ピースマインドのオンライン従業員援助プログラム「EAP」の契約企業は現在、数十社。対面式で社員の悩み相談を行ってきた企業が、利用者の伸び悩みなどからネット相談に切り替えるケースも多い。「EAP」の法人会員・大手ソフトウェアメーカーの人事担当者は「対面と違って社員が周りに気兼ねせず、いつでも空いた時間に相談できる点がいい」と言う。

ピースマインド・代表取締役
荻原国啓氏

35ものジャンル別に専門のカウンセラーが名を連ねる「ピースマインド」。ユーザーは匿名だが、カウンセラーはプロフィールを公開、ユーザーが自分に合ったカウンセラーを選べる。うまく選べないときは運営部に問い合わせることも可。会員はネット上に自分だけのプライベートな掲示板を持てる仕組みで、相談は3往復につき6000〜8000円
■www.peacemind.com

　だが一方で、同じく個人および法人向けのネットカウンセリングを展開する「ポジティブ・マインド」の運営母体、ビューテックラボ・代表取締役の松井功氏は「課題も多い」と言う。「費用対効果が目に見えるわけではないので、社員の悩み相談を“福利厚生”の一環と考える企業がまだ少ない。相談する社員から見ても、自社が契約するネットカウンセリングのシステムに十分な信頼を持てなければ、『相談した内容が人事部に筒抜けなのでは？』と疑い、それだけで逆にストレスになる」（松井氏）

ビューテックラボ・代表取締役
松井 功氏

同社が運営する「ポジティブ・マインド」の特徴は、相談者がカウンセラーを選ぶのではなく、必ず介在する“インテーカー”（専門スタッフ）が相談内容に合ったカウンセラーを紹介する点。相談者がカウンセラーを経歴などからイメージしてしまうのは、カウンセリング上マイナス、との考えからだ。システムは会員とカウンセラーだけのクローズドな掲示板方式で、会員は1ポイント＝100円のポイントを購入。1件の相談に関して3〜4往復（相談1件あたり3000円）が基本だが、「何ポイントとカウントするかは、その都度カウンセラーが決める。今回はあいさつ程度なのでゼロポイントでいい、というときもある」（松井氏）
■www.p-mind.com

　長年、企業の対面カウンセリングを手がける日本産業カウンセリングセンター理事長・野原蓉子氏も、「ネット相談だけに頼るのは疑問。同じ『疲れた』という言葉でも、対面や電話でなら、その抑揚から相談者の本音を見立てる（診断する）こともできる。だが、ネットでは文字が並ぶだけ。一度も会ったことのない人が打ち込んだ言葉の真意までも読み取るのは難しい」と語る。

　ネットカウンセリングは今後、リストラ不安に悩む社員や年間3万人を超える自殺者を抑制できるかもしれない。だが、まだいくつかの課題も横たわっているようだ。

		ピースマインドでは、ネットだけでなくリアルのカウンセリングの場も提供。両者のメリット/デメリットを補完し合うことで、より充実したカウンセリングの提供を目指す ■こころのマッサージルーム丸の内 千代田区丸の内3-2-3 富士ビル2F（丸の内カフェ上）
		文/牛窪 恵　撮影/下山 剛志

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