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モバイル放送、スタートしてみて分かった新たな利便性(1/3 ページ)

» 2004年12月09日 17時49分 公開
[西正,ITmedia]

災害対策としての機能

 モバイル放送および地上波デジタルのワンセグ放送の最大のエポックは、「テレビを持って歩けるようになった」ということだ。このため、エンターテインメント性はもちろんだが、災害対策のメディアとして有効ということが指摘されてきた。災害時に備えて用意しておくグッズの“三点セット”のうち、乾パンと懐中電灯はそのままとして、残る一つの“ラジオ”が“テレビ”に置き換わるというわけである。

 しかし、今回の新潟中越地震のような災害が実際に起こってみると、災害対策メディアの在り方について再認識されることになった。そもそも地震の怖いところは、津波などのように事前に警報されることなく、いきなりドンと来ることだ。突然の出来事だけに、常日頃から備えているとしても、いざという時に、冷静沈着に行動することは難しい。テレビが持ち歩けるようになったと言ったところで、早急に避難しなければならない緊急時に、テレビを見ている余裕などあるはずがないのだ。

 まずは安全なところに避難して、少し落ち着きを取り戻して初めて、テレビからの情報を得ようということになるのが実態だろう。もちろん、次なる採るべき行動について、テレビ放送から有効な情報が得られるのであれば、それにこしたことはないが、放送局側が流している情報は、地震の発生を告げ、被害がどのレベルに達しているのかというニュースが中心となるため、被災地で困惑している人たちに向けた有益な情報はすぐには提供されない。地元の放送局自体が機能麻痺に陥ってしまうので、被災者に向けたメーッセージが送られるようになるまで、それなりの時間を要することになるのは無理もないだろう。

 とすると、テレビを持って歩けることになったと言ったところで、実際の災害時にどれだけ即応性があるのかについては、引き続き課題として残されたままだ。ただ、阪神淡路大震災の時もそうだったが、避難生活を送る人たちにとっては、元の生活に戻れるまでの間の精神的疲労は大変なものであることは察するに余りない。今の段階で、持ち歩きのできるテレビの効用を見出そうとすれば、そうした辛い日々を過ごされる被害者の方々に対して、何らかの心のケアに役立つというところにあるのかもしれない。

 地震の被害、および二次災害が予想されることによって、自宅に戻ることのできない人たちは、大きな体育館のような所で集団生活を送ることになる。見ず知らずの人たちも含めて、相当な数に及ぶ世帯が所狭しと、一カ所に集中して生活するわけだが、限られたスペースの中で過ごし、いつ帰れるのかも定かでないまま、毛布などにくるまって再び自宅に戻れる状態を待つことになる。

 自宅でリラックスして過ごすのとは正反対の生活に、ある日突然放り込まれることになるため、そのストレスたるや想像の及ばないものに違いない。天災であるだけに、誰かを責めるわけにもいかず、ひたすら我慢を強いられることになる。何とか衣食住が確保されるとは言え、それだけでは精神的ダメージを癒すことなどできはしない。

 一日、二日と時が経過するにつけ、今後の見通しなども含めて、正確な情報が必要になってくる。それを得るための大画面テレビが体育館に設置されれば、そうした状況の中で必要最小限の情報が得られるようになる。家族、知人の安否情報も含め、食料の供給はどうなるのか、入浴はどこでなら可能なのかと、気になる情報が得られる窓口としてのテレビの役割は大きい。

 ただ、避難生活が長期化してくると、その分だけ蓄積されていくストレスを解消するためにも、エンターテインメント系の放送をプライベートに受信できることへの要望が高まってくるのは当然である。緊急時にはエンターテインメントなど要らないと思われがちだが、緊急時も長期化すれば、逆にエンターテインメントがなければ心が休まらないことになる。

 持ち歩けるテレビが役に立ち始めるのは、その頃からなのかもしれない。災害時の真っ最中よりも、災害後の心のケアとして役に立つのがモバイル放送をはじめとする移動体放送なのである。集団生活を送っていればなおさらのことだが、個々人の趣味は全く別々のものであるだけに、なるべく他人に気兼ねすることなく視聴できるテレビを個別に持っていられることの効用は大きい。

 ワンセグ放送の場合には、県域波を拾うことになるので、地元の放送局が機能しないことには、どの程度まで満足のいく放送を受信できるのか定かではない。その点、衛星放送であるモバイル放送ならば、映像、音声の多チャンネルを受信できるので、まさに真価を発揮することになるだろう。これまで注目されてきた災害時よりも、むしろ災害後の心のケアに役立つメディアだと言える。

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