2006年も残りあとわずか。今年最後の「デジタル閻魔帳」は、昨年と同じく、麻倉怜士氏が2006年を振り返って特に印象に残ったモノを、ハード・ソフト問わずにランキング形式で紹介してもらう「麻倉怜士のデジタルトップ10」。麻倉氏の挙げる、今年最も印象に深かったデジタルトピックスは以下の通りだ。
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麻倉氏: 今年はプロジェクタも含めて「フルHDのディスプレイ」の本格普及が大きな話題でしょう。HD DVDとBlu-ray Disc、地上デジタル放送がフルHDをプラットフォームとなったことから、フルHD環境がにぎわいを見せました。個人的にはAV機器以外にも、アイディアとテクノロジを上手に融合させた、従来にない切り口のデジタルグッズがたくさん出てきた年だと感じます。
――今年はいきなり番外が2つありますね。
麻倉氏: ひとつはクリプトンのスピーカー「KX-3(M)」です。
クリプトンは業務用AV機器を多く手がけるメーカーですが、ビクターでスピーカー「SX」シリーズの開発に携わった技術者が同社に在籍していることもあり、本当に素晴らしいデキです。かつての大ヒットスピーカーSX-3の現代版ともいえるスピーカーで、音楽性があって緻密であり、滑らかな音がします。剛性感、低音感もありますね。懐かしさを感じさせる「紙」の音がします。
最近はスピーカーに新素材を利用することが多いですが、人間が気持ちよく聴けるのは紙の音なのだなあと妙に納得するのです。肌触りのよさや気持ちのよさ、音楽的な風合いのよさなどが最新のテクノロジーと相まってリッチな音楽体験をさせてくれます。特にマイナーチェンジでKX-3Mになり表面材が変更され、さらによくなりました。
もうひとつはソニーのDVD-R「音匠」です。
デジタルではメディアによる音の差はあまりないと思われており、コストやデザイン、ラベルプリントなどの利便性が重視されてきましたが、音匠は圧倒的に音がいい。(レコード会社の)ソニーミュージックには音匠といわれる最終的な音決めを行う人がいるのですが、音匠の主観という人間的な要素が入ることによって、音のよいメディアになっています。
音の伸びや見通しに優れ、自然な輪郭を持っています。DVD-Rといえば一般的には放送のエアチェックに使われると思いますが、音楽番組のエアチェックに使うとはっきりとした差が出ます。DVD-Rという日用品ながらも、こだわりを持っているのは素晴らしいですね。
――10位には去年と同じく、放送コンテンツ「きみに読む物語」がランクインしましたね。
麻倉氏: 今年は画質の良いディスプレイが多く登場していますが、この映画の画質はこれまで私たちが放送から得てきた映像の中ではトップだと思います。去年のトップクオリティといえば「シービスケット」でしたが、それを凌駕しましたね。
どう高画質かといえば、S/Nがよく解像感が高いだけではなく、色のグラテーションが感じられる点を挙げたいと思います。単に絵が綺麗というだけではなく、画質で映像を読ませるという新しい画質のメルクマールを拓きましたね。「画質で読む物語」ですね。
主人公が赤い服に赤い帽子、赤い口紅と全身に赤をまとうシーンがあります。監督はそのシーンで、主人公が秘める心情を色で表現したかったと思うのですが、そのポイントになる赤の物語性をきちんと表現するかというのは、フルハイビジョンのディスプレイに課された使命でしょう。単に色の彩度感だけでなく、素材感まで再現されなければなりません。
せっかく初恋の人に逢えたのに失望するシーンでは、顔色の微細なグラテーションの違いが信号にがきちんと入っているのですね。
画質評価という点では、SD時代は「恋に落ちたシェイクスピア」がデファクトでしたが、HD時代はこの「きみに読む物語」がデファクトになりつつあります。フルHDの画質も、きれいさや鮮明感だけを感じさせる絵作りから、まさに「物語を語る」付加価値を持った絵作りに進まなければならないことを明示している素晴らしい作品です。
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