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インタビュー

薄利のMVNO事業で、なぜ「エックスモバイル」は生き残れたのかMVNOに聞く(1/3 ページ)

MVNO業界の慣習にとらわれない“やんちゃぶり”で話題となったエックスモバイル。サービス開始当初は「超絶赤字」だったそうだが、ついに債務超過をクリア。淘汰(とうた)が進むMVNOで、なぜエックスモバイルは生き残れたのか。木野社長に聞いた。

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 MVNO専業のベンチャー企業として設立され、その“やんちゃぶり”が話題となったエックスモバイル。良くも悪くも、業界の慣習にとらわれないアイデアは注目を集めてきた。社長自らがガジェット好きを自認しており、新古品のiPhoneや、並行輸入のXperiaを取り扱ってきた一方で、エイビット製の固定電話型端末「スゴい電話」や、ハローキティをかたどった「ハローキティフォン」といった“変態端末”を販売するMVNOとしても有名だ。

 基地局などの設備がいらないMVNOは、大手キャリアに比べ低コストで始められるのが特徴だが、それでも起業したばかりの会社には負担が重い。通信事業の経験がなければ、なおさらだ。プラスワン・マーケティングがMVNO事業を楽天に売却したように、業界では淘汰(とうた)の動きも進みつつある。実際、エックスモバイルも事業開始直後は、「超絶赤字」(木野将徳社長)で、いつ潰れてもおかしくない状態が続いていた。

 そんなエックスモバイルだが、コツコツと販路を拡大し、事業を続けてきたことで、ついに「債務超過はクリアできた」(同)という。もしもシークスというブランド名も一新。社名と同じエックスモバイルをブランド名に据え、新たな一歩を踏み出していくという。大手企業がバックにつかない、独立系のMVNOがなぜここまで生き残ることができたのか。その秘訣を、木野社長が語った。

エックスモバイル
エックスモバイルの木野将徳社長

地道にオペレーションを改善して品質を強化した

―― 事業開始直後は「超絶赤字」と語っていましたが、現状はいかがでしょうか。

木野氏 債務超過はクリアできました。まだ累積損失の繰り越しぶんがありますが、今期で売り上げと利益がドンと上がり、さらに増資を引き受けてくれるところもあったので、9月にやっと解消できた形になります。MVNOは薄利なので、売れば売るほど赤字になるところもあり、皆さん同じような悩みを抱えています。一方で、事業はスケールさせなければいけない。うちは買収のようなことはしませんでしたし、できなかったので、じわじわとオペレーションを改善し、品質を強化して、売れば利益が出る状態にしていきました。これが、ここ半年ぐらいのことです。

 それまでは、以前お話ししたように、超絶赤字でした。最初にITmediaさんのインタビューを受けたときは、毎月4000万円程度の大きな赤字が出ていて、「死ぬな」と思っていました。いいなという話になっても、過去の失敗が響いて、どこの出資も受けられず、そのままスタートせざるを得ませんでしたから。起業してから15年ほどたち、いろいろな事業をしてきました。失敗もしましたし、離婚もした。自己破産以外は全部しました。それもあって、金融機関からの借り入れもできませんでした。

―― なるほど。そこからどうやって利益を挙げられる体制になっていったのでしょうか。

木野氏 きっかけになったのが、定期的にメディアの取材が入り始めたことです。それを見て、販売も増えましたし、代理店になることを希望するところも出てきました。スゴい電話を出してから、なんだかんだで、テレビも10番組ぐらいに取材され、中にはスゴい電話から入りつつも、エックスモバイルの紹介や、格安SIMとはなんぞやというところをしっかり解説してくれたところもありました。

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固定電話型ケータイ「スゴい電話」は大きな注目を集めた

 (業績を軌道に乗せるうえで)大きかったのは、やはり販売店の拡大です。現在、全国に260の加盟店があり、一部を除き、みなさんが中小企業をやられている方々です。全国に販売店が増えたことで、エックスモバイルは品質向上やオペレーションに集中できます。販売に関しては代理店がやってくれる。そこを二人三脚でできたのが、大きかったと思います。

加盟店がもうかる仕組み

―― 店舗は基本的にフランチャイズだとうかがいましたが、現状では、どのくらい数があるのでしょうか。

木野氏 うちは直営店が1つもなく、全てフランチャイズ方式で店舗を展開しています。店舗数は今50ぐらいで、大体、月に2、3店舗のペースで出店しています。

―― 先ほど260の加盟店とうかがいましたが、店舗数の50とは差があります。これはなぜですか。

木野氏 100社ぐらいは無店舗で販売しています。こういったところは、うちの販売がメインというわけではなく、保険をやっていたり、車をやっていたりする中で、商材の1つとして取り扱っていただいています。ほとんどの方がそういうパターンでスタートしますが、うちの店舗でももうかっているところが出てきているので、それを見て、「自分も(店舗を)やってみようかな」と思う方もいるようです。

―― これだけ加盟店が多いと、運営やクオリティーコントロールが大変ではないでしょうか。

木野氏 そんなことはありません。僕もそうですし、スタッフもそうですが、代理店の皆さんとはとても仲がよく、円滑なコミュニケーションもできています。僕は今、週1回東京にいるようなスケジュールで、後は日本全国のどこかで代理店さんと打ち合わせしたり、ご飯を食べたりして、毎日を過ごしています。SNSにも写真を上げていますが、これも全て代理店さんと一緒に撮ったものです。

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木野氏がSNSにアップしてる、代理店担当者との写真

 代理店さんはほとんどの方が、ご自身の本業を持たれていて、地元では名士だったりもします。例えば、車屋さんだと、「エックスモバイルに変えれば、(大手キャリアとの差額と車のリース代が相殺でき)車が実質タダになる」というようなセールスの仕方ができます。焼き肉屋さんであれば、エックスモバイルに変えていただくことで、ビールが無料になったりもします。

 パチンコ屋や学習塾、美容院などもあり、美容院では、実際にカットしている間にエックスモバイルに変えたりもしています。そういった組み合わせが僕らの強みで、エックスモバイルのアセットは、販売店だと思っています。

―― といっても、MVNOの料金で販売店はきちんともうかるのでしょうか。

木野氏 例えば、イオンモール新瑞橋(愛知県)に店舗がありますが、ここは最初で4坪です。一方で、回線は毎月30から50ぐらいがコツコツ増え、端末の修理やアクセサリーの販売、中古の買い取りや機種変更、ガラスコーティングなど、全て合わせると150万円ぐらいの売り上げが立ちます。これで、家賃と2人分ぐらいの人件費が賄える。後は数十回線ずつコツコツ増やしていくと、それに比例して売り上げも増えていく仕組みになっています。

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イオンモール新瑞橋の店舗。中古買い取りや修理なども請け負う

 もちろん、出店してすぐにお客さんが来るわけではなく、半年以上やり続けて地域の人に信頼してもらうことが必要です。そこからじわじわと増やしていき、さらに回転がよくなっていくと安定していく。これが、基本的な店舗ビジネスです。

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直近にオープンした、またオープン予定の店舗
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