News | 2003年1月8日 05:32 PM 更新 |
以前触れたリコーの8000円メディア「NY74+MA」では、それを前提にいかに機器の負担を減らすかという点に設計の重点が置かれていた(リコーのインタビュー記事)。つまり、再生機の負担が少なくなると音質は向上するということになる。
「例えば、プレスCDからCD-Rに複製した場合、デジタル信号的には変化しないわけですから、複製したことによってメディアの特性がプレスCDよりも良くなると、当然音質も向上します」(森氏)。
これは言い換えると市販の音楽CDのプレスマスター並みの音質を持ったCD-Rを個人で作成できるということでもある。
というのは、最近の市販の音楽CDは、プレスマスターをCD-Rで作成するケースが増加してきている(ビクターのインタビュー記事)。レコード会社(レーベル)からみたら、CD-Rがオリジナルの音源というわけだ。つまり、デジタル信号の変化がないということは、プレスマスターの作成環境と全く同じ環境で複製を行うことができれば、同等のものが作成できるということになる。
現実には、ドライブやメディアなどといった部分を合わせることはできても、作成環境までを含めて同じにすることはできない。それでもかなり近いものを作成することができる可能性があるということになる。
ちなみに森氏がこれまで使ってきた中で最も気に入っていたメディアは、太陽誘電製の「CDR-63/570P」と三井東圧化学(現三井化学)の「MTCDR-63」の2つだという。いずれも、CD-R黎明期に登場したメディアで、現在では、すでに販売されていない。まれにオークションなどで見かけることがあるが、1枚1000円を軽く超える金額が付くという“レアメディア”である。
「他にも記憶に残っているメディアはありますが、強いてあげればこの2枚が最高でした。特にCDR-63/570Pは、素晴らしいメディアで、CDW-900Eと組みあわて記録したらそれは良い音がします。現在、この品質に近いメディアがあるとしたら、唯一、リコーのNY74+MAぐらいでしょうか……」(森氏)。
また、森氏に現在のCD-Rメディアについてどのように考えるか尋ねたところ、「(現在のCD-Rメディアは)駄菓子やハンバーガーのように低価格になって品質も悪くなり、“心”がこもっていないものが沢山あります。それに比べ、昔のメディアは良かった。今と違って丁寧に作られているので品質も良く、音も段違いですよ」。
加えて、「最近では、平気で直射日光の下で販売されていたりしますし、秋葉原などの専門店だとメディアのケースが積み上げられ、下が潰れていたりします。これじゃあ、ただでさえ品質が悪くなりがちなのにもっと悪くなりますよ」とショップのメディアの扱いも“雑”過ぎると森氏はしみじみ話す。
事実、現在のCD-Rメディアは、高速記録と低価格化の影響から品質は下がりガチ。特に40倍速や48倍速対応のメディアを旧型のドライブで使用すると、まともに再生(読み出し)ができないようなものを作成してしまうことすら出てきている。
リコーのNY74+MAという超高級メディアもあるが、これは1枚8000円もして、購入できたとしても個人で気軽に使うというわけにはいかない。「以前なら、太陽誘電製の63分メディアがお勧めだったんですが、現在では、ほとんど見かけなくなってしまいました」(森氏)。
このため、今よりも価格が多少高くても良いからもう少し何とかならないものか?――と考えるCD-Rファンも少なからずいるのではないだろうか。
「個人的には、昔のメディアが一番欲しいです。というのは、低速用のメディアを設計しても、旧型のドライブにとっては未知のものであり、完璧なライティングは望めません。そう考えると私が、現在一番欲しいのは、TDKの千曲川工場で作られた1-8倍速対応の初期のタフネスコートです。これだったら、CDW-900Eとの相性も良いですし、現在のドライブでも問題が起きません。ひそかに復活してくれないかと期待しているのですが……」(森氏)。
加えて、森氏は、現在のCD-R/RW市場を「ドライブ、メディアも昔に比べると非常に寂しい思いがしています。」としながらも、「音質変化の楽しい遊びをして自分の好みに合うCD-Rを見つけていただけるとうれしいです」と話していた。
なお、CD-Rの音質の変化がわからない場合は、森氏からは「高級オーディオの使用するのではなく、家庭用のコンポやCD-ROMドライブなどを使うと顕著にでます」とのアドバイスもあった。これにはもちろん、理由がある。「高級オーディオだと、DA変換後のアナログ回路に各種サーボ系のノイズが回りこまないように対策が施されており、メディアの音質差が微小になるからです。顕著に音質の変化がわかるのは、安価なシステムのほうですよ」(森氏)。
[北川達也, ITmedia]
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