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“バージョン20”に到達したAutoCAD

» 2005年03月16日 20時01分 公開
[IDG Japan]
IDG

 ワインボトルから大型SUVのハマーまで多種多様なモノのデザインをサポートしてきた老舗ソフト会社の米Autodeskは、主力ソフトの20番目のバージョンのリリースにより株式上場20周年を祝っている。

 1982年から建築家やエンジニアに使われてきた同社の汎用2D製図プログラム「AutoCAD」は3月15日にバージョン2006が発表され、新搭載のダイナミック入力ツールにより、値の入力やオプションの選択をコマンドラインの代わりにカーソルを使って直接行えるようになった。そのほかの主な新機能には、ブロックを新規作成する代わりに1つのブロックを調整して多目的に使える動的ブロック機能や、アクティブオブジェクトをはっきり目立たせるハイライト表示機能などがある。

 Autodeskは1985年に新規株式公開(IPO)を行ったが、AutoCADの初版のリリースはその3年前にさかのぼる。ソフト業界では、単一製品が20年以上にわたって提供されるのは息の長い部類に入る。

 「80年代の終わりには学校でUNIX版のバージョン9を使っていた」とLaser Custom Designsのメカニカルデザイナー、ジェイ・フェン氏は語る。「今はバージョン2004を使っている」

 Autodeskは平均してほぼ年1回のペースでバージョンアップを行ってきた。バージョン名の付け方は初期のころとは変わっている。

 「便利さが強みだ」とAutodeskのカール・バス最高執行責任者(COO)は、同ソフトが生き残ってきた理由を要約した。手ごろな価格のローエンドCADソフト市場を開拓した同ソフトは、「想定していたよりもずっと多様な用途」に使われるようになった。

 AutoCADは現在、自動車だけでなく自動車工場や自動車製造ロボットの設計にも使われている。一番予想外だったのは、服のデザインにまで使われていることだとバス氏は語る。

 また、AutoCADの歴史はこの数十年のコンピュータ業界を映し出している。AutoCADは最初はCP/Mプラットフォーム用に開発され、人気が出たのはDOS版がリリースされてからのことだった。

 「1990年代には、一度に15のプラットフォームをサポートしていた」とバス氏。だが現在では、AutoCADは初版と比べてコード量が40倍に上り、Windowsプラットフォーム用にしか提供されていない。バス氏は、ほかのOSに対応したバージョンを作ってほしいという要望も少数あるが、AutodeskはほかのOSをサポートする計画はないと語る。

 ジェイ・フェン氏は主にモデル作成にAutoCADを利用しており、モデルのファイルはレーザーで部品を切削加工するCNC(コンピューター数値制御)マシンに読み込まれる。同氏はAutoCADの機能のうち30%しか使っていないと推計しており、同プログラムは高価すぎるとしてもっとシンプルで安いバージョンを求めている。

 バス氏によると、フェン氏の希望はかなわないもようだ。

 「カジュアルユーザー向けにLTバージョンを提供しているが、これとプロフェッショナルバージョン以外のバージョンは計画していない」とバス氏。

 AutoCADは常に順風満帆だったわけではない。

 「苦しい時期が2回あった」とバス氏。「1度目は自業自得なのだが、1990年代初めに設計を完全に見直したときのことだ。予想以上にコストと時間がかかってしまった。2度目はインターネットブームのころで、製図ツールのようなインターネットと関係ないものは見向きもされなかった。だがこの数年で状況は様変わりした」

 Gartnerの主席アナリスト、シャロン・タン氏は、AutoCADがこれだけ長い間生き残ってきた理由の1つに、世界的に大規模なユーザー基盤があることを挙げている。これらユーザーは「従来、CADソフトを乗り換えることに消極的だった」という。

 「大規模なユーザー基盤のほかに、AutoCAD DWGファイルフォーマットの図面の基盤が拡大したこともある。ファイルの変換が常に完全にうまくいくとは限らないため、ユーザーにとってはDWGファイルを別のフォーマットに変換しない方がいいのだ。このため、彼らは既に持っているAutoCADを使い続けようとする」(同氏)

 現在のAutodeskは順調な業績をあげており、2004年11月〜2005年1月期の売上高は3億5600万ドルだった。

 同社は旧バージョンから上位製品への世代交代を促進することで、市場での強固な基盤を維持しようとしている。AutoCADは年間サブスクリプション料が420ドルなのに対し、アップグレード料は500ドルだ。

 「サブスクリプション制により、年間を通して売り上げを安定させることができる」とバス氏。「それに、アップグレードを促すマーケティングに費用をかけずに済む」

 バス氏によると、AutoCADのユーザーは600万人で、LTとプロフェッショナルバージョンの内訳はほぼ半々。全ユーザーのうち60万人がサブスクリプションに加入している。

 Autodeskは15日、ほかの大半の製品のアップグレード版も発表した。概要は以下のとおり。

  • Revit Building 8:DWF Composerによる修正やマークアップをRevitモデルに取り込む機能や、モデルをスキャンして、ユーザーが指定できる要素とシステム間の矛盾を検出する機能が追加された。

  • Buzzsawサービス:プロジェクトのライフサイクルを通じてプロジェクト情報のやりとり、共有、追跡が容易にできるようにプロジェクトポートフォリオ監視機能と新しいワークフロー機能が搭載されている。

  • 3D設計ソフトのInventor 10:時間を節約するために“オーバーエンジニアリング”を防止する新しい設計機能を備える。

  • Architectural Desktop 2006:複数ファイルのプロジェクトにわたってスタイル定義と表示設定のメンテナンスと同期を自動化するProject Standardsを新たに備える。また、Design Web Format(DWF)ファイルへの変換が容易になった。

  • Building Systems 2006:設計の精度が向上し、エンジニアリング設計データへのアクセスが簡単になり、Webブラウザ用のDWF形式などサードパーティアプリケーションへのエクスポートが簡略化された。

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