AI学習目的の海賊版収集・利用は著作権法違反になるか? 柿沼太一弁護士の見解(4/4 ページ)
補足:「原則侵害・例外として権利制限」という枠組みについて
ちなみに、セミナー資料にはもう1点気になる箇所があります。セミナー資料は「合法入手以外の部分は原則著作権侵害、例外として一定範囲内の公正利用は認められる」とした上で、30条の4を「例外」と位置付けています。
すなわち「合法入手(正規ダウンロード)以外の部分は原則著作権侵害」「例外として一定範囲内の公正利用は認められる」という枠組みです。
また30条の4について、以下のスライドでは「30条の4 学習パラダイス等といった話が広く聞かれますが、AI学習目的のデータ収集利用が基本的にOKというのではなく、合法入手(正規ダウンロード)以外の部分は原則著作権侵害、例外として一定の範囲内でのみOKに立ち戻って考える意識は大切」と述べています。
筆者自身もセミナーなどで、権利制限規定について説明をする際に「原則」と「例外」という表現を使うことがあります。著作権法の体系を概観する際に、「原則として著作権者の許諾が必要だが、例外として権利制限規定に該当する場合は許諾不要」と説明するのは便宜的に分かりやすいからです。
しかし、少なくとも30条の4については、この「原則・例外」の枠組みは誤解を招くおそれがあります。30条の4は、著作権法が保護しようとしている利益(著作物の表現の価値を享受することから生じる対価回収機会)をそもそも害さない行為を権利の範囲から除外するものです。
「考え方」25頁でも、非享受目的利用について「著作権法が保護しようとしている著作権者の利益を通常害するものではないと考えられるため、当該行為については原則として権利制限の対象とすることが正当化できる」と述べられています。
そもそも、権利制限規定は著作権者の「完全な権利」から恩恵的に切り出された「例外」ではなく、権利の本来あるべき姿を導くためのものです 。
いずれにせよ権利の制限は権利者から権利を奪うための規定ではなく,権利の本来あるべき姿を導くためのものである。そもそも著作権は天賦の人権であって一寸たりとも侵すことは許されないと考えるべきではない。著作権法が創作者に独占的な権利を付与している目的はあくまでも文化の発展のためであり,元来著作権は満月のごとき全き権利であって権利制限規定はそれを浸食するものであるという考え方は妥当でない(中山信弘『著作権法(第4版)』(有斐閣)355頁)
セミナー資料のように「原則侵害」を出発点とすると、30条の4の適用範囲を不当に狭く解釈する方向にバイアスがかかりやすくなります。この枠組み自体が、セミナー資料で紹介されている海賊版利用に対する30条の4の解釈にも影響を与えているのかもしれません。
論点のまとめ
以上の検討をまとめます。
第1に、セミナー資料が想定しているであろう「海賊版を用いて同じ表現を出力できるAIを作ること」が違法であることは明らかですが、それは海賊版を使ったからではなく、表現出力目的(享受目的)があるからです。この違法性は正規版を使った場合でも全く同じであり、海賊版かどうかは問題の本質ではありません。
第2に、海賊版のAI学習利用が30条の4但書に該当するという見解は、条文に適法アクセス要件が設けられていないという明示的な立法選択、立法者の国会答弁、文化庁小委員会での議論、「考え方」の記載内容のいずれとも整合しません。海賊版利用を制限すべきだという立法論は理解できますが、現行法の解釈論としてそのような結論を導くことには無理があります。
第3に、但書該当性の判断基準として「AI学習に利用しやすいかどうか」を持ち出している点は、「著作物の利用市場との衝突」「潜在的販路の阻害」という本来の判断基準から逸脱しています。
繰り返しになりますが、海賊版の利用を「控えるべき」という倫理的な立場と、現行法上「適法である」という法的評価は、両立し得るものです。この両者を混同することなく、正確な法的理解の上に立った議論が行われることが重要であると考えます。
著者プロフィール:柿沼太一
2000年弁護士登録。専門分野はディープテック・スタートアップ法務、AI・データ法務。経済産業省「AI・データ契約ガイドライン」検討会検討委員(~2018.3)。「第2回 IP BASE AWARD」知財専門家部門グランプリを受賞(2021)。日本ディープラーニング協会(JDLA)理事(2023.7~)日本データベース学会理事(2020.8~)。主な著書として『機械学習工学(機械学習プロフェッショナルシリーズ)』(講談社、2022年)、『60分でわかる!最新 著作権 超入門』(技術評論社、2024年)『ディープテック・スタートアップの知財・契約戦略』(中央経済社、2024年)。「AIと法 実務大全」(日本加除出版、2025年)
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