AI学習目的の海賊版収集・利用は著作権法違反になるか? 柿沼太一弁護士の見解(1/4 ページ)
本稿は、日本弁理士会が2026年1月28日に報道媒体向けに実施したセミナー「生成AIと著作権」の内容に対する論評です。まず、本稿の執筆に至った経緯を説明します。
上記セミナーの資料は一般には公開されていませんが、セミナーを取材したITmedia AI+が記事を公開しました。筆者はこの記事を読み、セミナー内容の法解釈に疑問を感じたため、X(旧Twitter)上でその旨を投稿しました。
その後、当該記事を執筆した編集部からご連絡をいただき、セミナー内容に対する論点を整理した記事の寄稿を打診されました。同編集部を通じて日本弁理士会に確認したところ、記事制作目的であればセミナー資料を引用した上で論評することについて問題ないとの回答を得ました。そこで、編集部からセミナー資料の提供を受け、本稿の執筆に至ったものです。
はじめにお断り
本稿では、セミナー資料の法解釈に対してかなり踏み込んだ指摘をしています。厳しい書き方になっている部分もありますが、本稿で扱う論点は、AI開発の実務に直結する重要な法的論点の解釈に関わるものです。正確な法解釈の共有が不可欠なテーマであるため、あえて明確な形で問題点を指摘させていただいています。その点、ご容赦いただければ幸いです。
また、本稿を読んでいただくにあたり、一点だけ意識していただきたいことがあります。それは「避けるべき・控えるべき」という倫理的・道義的な議論と、「違法か適法か」という法律的な議論は、明確に分けて考える必要がある、ということです。
海賊版の利用を「控えるべき」という倫理的な立場は十分に理解できますし、筆者もその点に異論はありません。しかし、「控えるべき」であることと「違法である」ことは全く別の話です。この2つを混同してしまうと、本来は適法な行為に対してまで法的リスクがあるかのような誤解が広がり、AI開発の現場に無用な萎縮効果を生むことになりかねません。
同様に、「海賊版の利用を制限すべきだ」という立法論と、「現行法の解釈として海賊版の利用は違法である」という解釈論も明確に区別する必要があります。立法論としてAI学習に海賊版を利用することに何らかの制限を設けるべきだという主張は理解できますが、現行法の解釈としてそのような結論を導くことには無理があります。本稿はあくまで、解釈論の観点から現行法の正確な解釈を検討するものです。
日本弁理士会「生成AIと著作権」セミナーの概要
本セミナーは、(1)生成AI目的の書籍データ収集利用行為、(2)AI検索(RAG)、(3)両者の比較考察――の3つのテーマを扱っています。主なよりどころ資料として、文化審議会著作権分科会法制度小委員会の「AIと著作権に関する考え方」(2024年3月15日、以下「考え方」)が挙げられています。
本稿では、このうち主に(1)について、セミナー資料における著作権法30条の4の解釈を検討します。セミナー資料のうち、筆者が問題だと考える記述は以下の部分です。
セミナ―資料の問題点
「AI学習目的の海賊版書籍データ収集利用行為について、30条の4の適用は否定される可能性があると考えられる」とし、その根拠として30条の4但(ただし)書(「著作権者の利益を不当に害する場合を除く」)への該当可能性を挙げています。そして、「海賊版は正規版と比較して収集(ダウンロード)後の複製も簡単な可能性があり、その分AI学習にも利用しやすいかもしれない」を但書該当性の論拠としています。
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