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AI学習目的の海賊版収集・利用は著作権法違反になるか? 日本弁理士会が示した見解は

» 2026年02月02日 13時58分 公開
[吉川大貴ITmedia]

 米Anthropicの裁判沙汰など、AI開発企業の動向が物議を醸すAI学習目的の海賊版書籍データ収集・利用問題。日本の経済産業省も海賊版被害が拡大傾向にあるとの調査結果を発表しており、国内のクリエイターや企業にとっても無関係な問題ではない。果たして日本の法制度では同様の事態がどう扱われるか、日本弁理士会が1月28日のセミナーで見解を示した。

焦点は著作権法30条の4に

 Anthropicの裁判は2024年8月、作家のアンドレア・バーツ氏らが提起したもの。同社が海賊版サイトから著作物を取得し、生成AI「Claude」のトレーニングに利用したことが著作権侵害に当たるとして、米カリフォルニア州北部地区連邦地裁に訴えを起こした。

 AI学習における書籍の無断利用自体は合法とされた一方、海賊版の利用は「本質的に回復不可能な侵害」との判断が連邦地裁から示された。最終的に同社は原告に最低でも15億ドルを和解金として支払い、海賊版サイトから取得したファイルやコピーを全て破棄することが義務付けられた。日本弁理士会の久村吉伸弁理士によれば、米国において同様のケースはフェアユースに当たるかが議論になる場合が多いという

 一方日本においては、非正規に取得したデータのAI学習は原則として著作権侵害になる。ただし例外もあり、権利制限規定である著作権法30条の4が適用されるかどうかが論点となるという。久村弁理士は「適用が否定され、著作権侵害になる可能性がある」と考察する。

photo 著作権法30条の4全文(e-Govから引用)

 AIと著作権の関係において、現時点で運用の実質的な目安ともされる文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」では「Webサイトが海賊版等の権利侵害複製物を掲載していることを知りながら、当該Webサイトから学習データの収集を行うといった行為は、厳にこれを慎むべきものである」とされている。海賊版の利用が著作権法違反に当たるかは明言されていないが、久村弁理士は「『著作権者の利益を不当に害する場合』に当たり、30条の4が適用されない可能性がある」との見方を示す。

photo 久村弁理士の講演資料(一部抜粋、以下同)

AI検索における海賊版の利用の論点は

 久村弁理士は同じく海賊版の利用が起きうるケースとして、「RAG」(Retrieval-Augmented Generation、検索拡張生成)を活用するAI検索サービスにも触れた。RAGとは、データをLLMに参照させることで、回答の精度向上を図る手法のこと。例えばAI検索サービスの中で、AIが情報を参照するために海賊版を複製した場合や、それを基にした回答を出力した場合、日本の法制度でどう扱われるか──というのが主な論点だ。

 久村弁理士によれば、この場合も正規ダウンロードでない場合は原則として著作権侵害になるが、その上で30条の4などの例外規定が適用されるかが議論になるという。

 まず30条の4については、同項の適用対象となる「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に当たるかが焦点となる。AI検索の結果、例えば参照元の記事に類似する表現をAIが出力してしまった場合は30条の4の適用外になる可能性がある。

 もう一つの論点は、情報の検索や解析、その結果を提供する行為に付随した著作物の軽微利用を認める著作権法47条の5だ。通常のインターネット検索はこれによりサイト内情報の表示に伴う複製が認められる形だが、AI検索の出力については「AI検索は既存のインターネット検索との差別化が目指されている。クリックしただけで記事や情報を全部AIに入力し、解析・要約して出力し、既存の検索を超える情報を提示するため、軽微利用や付随した利用の範囲を超える情報を出力し得る」(久村弁理士)といい、その場合は47条の5の適用外になる可能性があるとの見方を示した。

 著作権法32条の引用が成立するかも論点の一つ。久村弁理士は、AIによる参照などに当たってはインターネット記事のほぼ全文を複製する可能性が高く、引用の要件を満たしにくいとみている。「AIの中身が確認できるわけではないが、不要な部分をカットしたり、一部分だけを複製する理由も見当たらない」(久村弁理士)。AIが参照する際の複製とは別に、AI検索結果の出力が引用に当たるか当たらないかという論点もあり、47条の5と合わせて議論や判断が複雑化する可能性もあるという。

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労力保護しない著作権法 あくまで保護手段の一つに

 久村弁理士はAIが著作物に与える影響についても私見を述べた。書籍やインターネット記事を含む創作的表現は、制作の過程でもさまざまな努力が存在する一方、著作権法の保護対象はあくまで成果物である著作物で、それが生み出されるまでの身体的労力などは保護しない。これまで労力の対価は著作物の販売やサブスクリプション、広告収入によって得られてきたが、AIの登場によって既存のビジネスモデルが影響を受け始めていると話す。

 分かりやすい例の一つが報道機関などによるインターネット記事だ。ファクトチェックやスピーディーな報道に努力があるのは間違いないが、著作権法だけではその努力を守れないと久村弁理士。対応として、記事を有料化したり、閲覧にログインを必須化したりする選択肢もあるが「鮮度の高い情報をいち早く多くの人に提供したい」という意向には対応できない。

 一方で、不正競争防止法をはじめ協業秩序や経済的利益の点から他法で保護されるケースもある。そのため久村弁理士は、著作権法をあくまで守りたいものを守る手段の1つとして位置付けるべきとの考えを示した。

 「著作権外の問題も多く、著作権法だけでは十分な対処は難しい段階に来ている。一方、米OpenAIと米Disneyの協業をはじめ、ライセンス契約などの複合的なビジネスモデル作りが進むことも予想される。当事者同士が互いに良い関係を築ける決着となることが期待される」(久村弁理士)

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