主婦がAIアニメでYouTube登録者100万人を突破――1億ユーザーのAI動画生成サービス「PixVerse」の実態

 映像制作の経験がないスペインの主婦が、AI動画生成ツールで100本以上のアニメ短編を作り、YouTubeチャンネル登録者100万人を突破した。ベトナムのテレビ局は、俳優を危険にさらす撮影シーンをAI生成映像で置き換えている。

 こうしたクリエイターや制作現場を支えるのが、177カ国で1億人超のユーザーを持つAI動画生成プラットフォーム「PixVerse」だ。

 運営企業のシンガポールPixVerseは2023年に設立され、26年3月にシリーズCの資金調達を完了してユニコーン企業となった。AI動画生成の分野では、米Googleや中国ByteDance、5月に日本進出を発表した米Runwayなどが競合するが、PixVerseは価格の安さと生成速度を強みに打ち出している。

 同社のロビン・タン氏(APACパートナーシップ・グローバルPR責任者)が6月1日、中国・深センで開催された展示会「Global Connect Show」で、PixVerseの活用事例や最新の動画生成モデル「V6」を紹介した。

プロも活用、ホラー映画を制作中

 PixVerseのユーザー層は3つに分かれる。「TikTok」のテンプレートでダンス動画を作る一般ユーザー、短編映画やYouTubeコンテンツを制作するプロシューマー(生産者の側面も持つ消費者)、映像制作チームや企業だ。

 米国が最大の市場で、日本を含むアジアやヨーロッパにもユーザーが広がっている。APIを通じた外部連携も進めており、複数の企業がPixVerseの動画生成機能を自社サービスに組み込んでいる。

ユーザー層を一般クリエイター、プロクリエイター、企業の3層に分けて説明するタン氏

 冒頭に紹介したスペイン在住のクリエイターであるダリア・グリン氏は、子どものために良いアニメがないと感じたことがきっかけで、PixVerseを使った短編アニメの制作を始めた。動画の累計再生回数は1000万回以上に達しており、長編アニメ映画「Aisha: Legend of the Desert」も26年内に公開する予定だ。

PixVerseでアニメ短編を100本以上制作したグリン氏の事例を紹介した

 ベトナムのテレビ局の事例では、タクシーが水中に沈むドラマのシーンでAI生成映像を活用した。同社はこうした映像制作チーム向けに、キャラクターとシーンの画像を組み合わせてサンプルショットを生成し、監督のイメージをチーム内で共有する使い方も提案している。

ベトナムのテレビドラマでは、タクシーが水没する危険なシーンをAI生成映像で制作した

 プロの映像制作者との協業も始まっている。プロデューサー・脚本家のアンナ・ピメン氏らのチームと組み、全編AI生成のホラー短編映画「Elderberry」を制作中だ。

PixVerseのモデル、“ほぼリアタイ”で動画生成できるものも

 展示会で披露したV6は、同社の主力モデルだ。1つのテキストプロンプトから、複数のシーンで構成された音声付き動画をまとめて生成できる。映像と音声を同時に出力するため、従来は別々に必要だった編集や音声制作の工程を減らせる。動画の長さは最大15秒で、解像度は1080pに対応する。映像内のテキスト表示は日本語・英語・中国語に対応した。

V6で生成したドラゴンの映像デモ。右側にプロンプトや解像度の設定画面が表示されている

 V6をはじめとする「V-Series」に加え、映画制作向けの「C-Series」も展開している。4月に提供を開始したモデル「C1」はストーリーボードから動画を直接生成する機能をβ版で備え、アニメーション制作にも対応する。

 1月に発表したモデル「R1」は、テキスト入力に応じて1080pの映像をミリ秒単位の遅延で連続生成できる。あらかじめ動画を書き出すのではなく、プロンプトに応じて映像がその場で変化し続ける。

R1のデモ画面。プロンプトに応じて水槽の映像にサメが即座に出現した

 展示会の会場に設置されたデモ端末では、水槽の映像に対して来場者がプロンプトを入力すると、サメやタコが即座に出現した。世界中の複数ユーザーが同時にプロンプトを送ることもでき、モデルが入力内容を判断して映像の展開を決める仕組みだ。ユーザーの入力がなければ映像は自動で展開を続け、誰かが入力すればその内容に応じて映像が変わる。

R1のライブデモには28人のユーザーが同時に参加し、チャット欄からプロンプトを送って映像を変化させていた

広告動画の自動生成やCLI対応も

 企業向けツールの拡充も進めている。商品画像と簡単な説明文を入力するだけで、シーン構成やナレーション、字幕を含む広告動画を自動生成する「Ad Master」を提供開始した。従来は数万円かかっていた動画制作コストの削減を見込む。

 開発者向けには、CLI経由での動画生成に対応する「Skills」も用意する。米AnthropicのAIコーディング支援ツール「Claude Code」や米OpenAIの「Codex」などの開発環境と連携できる。

 現在の売り上げはV-Seriesが全てを占めるが、C1やR1で映画制作やインタラクティブ体験の領域にも踏み込む構えだ。

 質疑応答では、AI動画生成が詐欺コンテンツに悪用されるリスクへの対策を問われた。タン氏は、TikTokなどではAI生成コンテンツである旨の表示が求められていることを挙げ、「1社だけで解決できる問題ではなく、業界全体でコンプライアンスを推進する取り組みが必要だ」と回答した。

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石井徹

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