Innovative Tech(AI+)
デスクトップPCで天気予報を“約1秒”で高精度予測 スパコン不要 英ケンブリッジ大などが発表
Innovative Tech(AI+):
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高いAI分野の科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
X: @shiropen2
英ケンブリッジ大学や英アランチューリング研究所などに所属する研究者らが発表した論文「End-to-end data-driven weather prediction」は、高速かつ高精度で気象予測ができるシステムを提案した研究報告である。既存の気象予測システムよりも数十倍速く、数千倍少ない計算能力で正確な予報を提供できるという。
従来の気象予測システムは、観測データの取得、データ同化、予測モデルの実行、後処理という複雑なプロセスから成り、専用のスーパーコンピュータを必要としていた。巨大で高価、かつエネルギー消費も激しいスーパーコンピュータは、気象予測に数時間を要する。
一方、今回提案の気象予測システム「Aardvark Weather」は一つの機械学習モデルがこれらのプロセス全体を代替し、観測データを直接入力として全球グリッド予報と地点予報を生成する。Aardvark Weatherは、従来の精度を維持しながらデスクトップコンピュータ(4台のNVIDIA A100 GPU上)を使用して約1秒で予測できるという。
Aardvark Weatherは3つのモジュールで構成。まずエンコーダーモジュールがさまざまなソースからの観測データを取り込み、初期状態を推定する。次にプロセッサモジュールがこの初期状態から24時間先までの予測を生成し、より長期の予測は自己回帰的に行う。
最後にデコーダーモジュールが特定の予測タスク(例えば地点予報)を実行する。エンコーダーとプロセッサモジュールはVision Transformer(VIT)で、デコーダーモジュールは軽量な畳み込みアーキテクチャとして実装されている。
評価実験では、Aardvark Weatherを4つのベースラインと比較している。最も単純な持続予報と気候値予報、2つの運用中の全球数値予報システム(ECMWFのIFSとNCEPのGFS)である。
結果、このシステムはほとんどの予測時間においてGFSを上回り、ECMWFのIFSに迫る性能を示した。特筆すべきは、Aardvark Weatherが従来のNWP(将来の気象状態を予測するシステム)が利用できる観測データのわずか約8%しか使用せず、計算コストも大幅に削減できる点である。
地点予報評価では、地上2mの気温と10mの風速の予測精度を検証した。システムは最大10日先まで高い精度の予測を実現し、統計的後処理を施したNWPや人間の予報官が関与する最先端システムと同等の性能を示した。
Source and Image Credits: Allen, A., Markou, S., Tebbutt, W. et al. End-to-end data-driven weather prediction. NatureI(2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-08897-0
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Innovative Tech(AI+)
2019年の開始以来、多様な最新論文を取り上げている連載「Innovative Tech」。ここではその“AI編”として、人工知能に特化し、世界中の興味深い論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia AI+に関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
OpenAI、「GPT-6 Sol」と「GPT-6 Luna」公開 API料金は前世代の半額に
-
2
脱メインフレーム、7割超が失敗 背景に「生成AIへの過信」 2026年度上半期システム刷新記事ランキング
-
3
Anthropic、「Claude Opus 5.5」公開 Fable 5.1並みの性能で利用コスト4割減
-
4
「Jev」とは “文章を書かないAI”がなぜ話題に? 元OpenAI研究者が開発、「“スマートなif文”と考えてみて」
-
5
トランプ大統領、国連演説で「AI」を「Super Intelligence」に改称すると表明
-
6
キユーピー、AIで工場シミュレーションモデルの開発工数を8割削減 3つの壁をどう乗り越えた?
-
7
今押さえたい「半導体」の基礎知識 極小チップが“AI時代の戦略物資”になった、納得の理由
-
8
経営「AIでラクして早く帰って」→社員「帰らない」 工数最大9割減のDeNAも悩むAI効率化の壁
-
9
OpenAI、数学者の独立諮問グループと連携 内部モデルは「100件超の未解決問題を解決」
-
10
2兆円でNVIDIA傘下に入った「Hugging Face」――出資拒否から一転、何があった?
SpecialPR
ITmedia AI+ SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmedia AI+をフォロー
あなたにおすすめの記事PR