このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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米ペンシルベニア州立大学航空宇宙工学科に所属する大学院生のディヴィヤ・ ティヤギさんが学部生だったころに発表した卒論「Glauert’s optimum rotor disk revisited - a calculus of variations solution and exact integrals for thrust and bending moment coefficients」は、100年前の数学問題をよりシンプルかつ洗練された形を提案した。空気力学の研究を拡大して風力タービン設計における新たな可能性を開いたという。
ティヤギさんは、約100年前に英国の空気力学者ハーマン・グロワートが提案した風力エネルギーを電気に変換する効率の計算方法に着目。「風力タービンの理想的な流れ条件を解明することで、タービンの出力を最大化するための方程式を作成した」と説明している。
彼女の指導教官であるシュミッツ教授によると、グロワートは風力エネルギーの変換効率にのみ焦点を当てていたが、彼女の改良版では風の力によるタービンブレードへの負荷も考慮しているという。グロワートは、ローター(ブレードが取り付けられた回転ユニット)に作用する総力とモーメント係数、タービンブレードが風圧でどのように曲がるかについては考慮していなかった。
この研究の最大の強みは、複雑な数式を変分法という手法を用いてシンプルに表現したことだ。
実用面では、この理論の応用価値は非常に高い。「大型風力タービンの出力係数をわずか1%改善するだけで、タービンのエネルギー出力が著しく増加し、近隣地域全体に電力を供給できる可能性がある」とティヤギさん。
シュミッツ教授も「本当の影響は、今回明らかにされた新しい知識を活用した次世代の風力タービンに現れるだろう」という。この改良された計算方法は風力発電のコスト削減や性能向上に大きく貢献すると期待されている。
ティヤギさんは「論文執筆に時間がかかったが、自分がやってきた仕事の成果を見ると、今は本当に誇りに思う」と振り返る。この功績により、彼女は航空宇宙工学科の優秀論文に贈られる「Anthony E. Wolk Award」を受賞した。
現在、修士課程に在籍するティヤギさんは、流体力学シミュレーションを研究し、ヘリコプターのローター周りの空気の流れを分析している。「目標は、それを船の周りの複雑な流れと統合し、船の航跡が船の甲板に着陸しようとするヘリコプターとどのように相互作用するかを確認すること」と語る。米海軍の支援を受けたこの研究は、フライトシミュレーションの改善とパイロットの安全性向上を目的としている。
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