AIによるコード生成はある程度普及したが、大規模システム開発もAIに任せられるようになるのか――日本IBMが示した一つの解が、4月14日に発表したコンテキスト標準ソリューション「AI Lifecycle Shared Engineering Artifacts」(ALSEA、読みはアリーシア)だ。大規模開発におけるメソッドやノウハウなどをまとめたドキュメント群をAIに参照させることで、AIが主体となって高品質な大規模システムを開発できる体制を整え、既存システムのブラックボックス化などで経済損失が生じるとされる「2025年の崖」問題からの脱却を促進するとうたう。
日本IBMは2026年を「システム開発のあり方を過去40年で最も変える年だ」と位置付け、従来の人中心の開発手法から、AIを中心とした「AI駆動開発」への転換を進めている。
同社はAI駆動開発を、仕様文書を用意せずコードを生成する「バイブコーディング」、AIと共に開発計画を立ててから開発する「ハイブリッド」、仕様文書を基に開発する「仕様駆動開発」の3つに区分する。記者発表会に登壇した日本IBMの髙橋聡氏(執行役員 インダストリー・サービス&デリバリー統括)によれば、バイブコーディングは細かい制御が難しいため大規模開発には向かず、ハイブリッドはAIをコントロールする技術者のスキルに依存するという課題がある。大規模システムの品質を確保し属人性を排除するには、仕様駆動開発を高いレベルで実現する必要があると指摘する。
その土台となるのが、同社が3月に一般提供を開始したAIエージェント駆動型の開発支援パートナー「IBM Bob」(以下、Bob)だ。ユーザーの指示に応じて最先端モデルを含む複数のモデルを使い分けることで、高品質なシステム開発が可能になったとアピール。髙橋氏はBobを「スーパーエンジニア」と表現し、IBM社内では既に7万人以上の従業員が利用していると述べた。
ただし、Bobを利用するだけで大規模開発が可能になるわけではないと同社は指摘。システムの品質はAIに指示をする開発者のスキルに依存し、AIの利用法に精通した技術者を相当数そろえるのも難しいためだ。プロンプトが文書として残らないため保守性にも懸念が残り、組織固有の標準や業界規制への対応など複雑な要件への対応も困難だという。
そこで髙橋氏は、組織が蓄積してきた形式知と暗黙知を、AIが参照する背景情報「コンテキスト」として整備することが、大規模システム開発にAIを適用する際の成功の鍵だと強調した。
今回発表されたALSEAは、IBMが長年蓄積してきた大規模開発のメソッドや標準プロセス、成果物テンプレート、ルール、ガイドを、Bobが参照可能なマークダウン形式の文書として体系化したものだ。要件定義からテストまでの各フェーズで、開発者とプロジェクトマネジャーが、Bobを通してこれらの文書を呼び出せるようにする。
日本IBMの早川勝氏(執行役員 技術戦略 テクニカルリーダーシップ担当 副CTO)によるデモでは、特定のコマンドを実行することで、各種要件や外部設計、技術設計が生成され、アーキテクチャ選定理由まで記録される様子が示された。
経済産業省は2018年に公表した「DXレポート」で、既存システムの複雑化、ブラックボックス化によって、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じると予測し、これを「2025年の崖」と名付けた。髙橋氏はALSEAを、この問題の解決策としても位置付ける。基幹システムのブラックボックス化と有識者の減少という課題が、AI主体の開発への転換で解消されるという見立てだ。
日本IBMは2027年以降、AI駆動開発の推進によって同社のシステム開発プロジェクト全体で35%の工数削減と30%の期間短縮を目標に掲げる。ALSEAは4月14日から先行プロジェクト向けに提供を開始し、一般提供は2026年下期を予定する。
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