米NVIDIA×ソフトバンク、日本の“AIインフラ構築”へ 孫正義氏「これは国家安全保障の問題」(2/2 ページ)
米半導体大手NVIDIAとソフトバンクは、日本におけるAIインフラの構築で包括提携すると発表した。
さらに両社は、開発したAIモデルを販売・配信する「AIストア」の開設も計画。ソフトバンクの5500万人の顧客基盤を生かし、サードパーティー開発者を含めた多様なAIサービスを展開する方針だ。
「産業革命には道路と工場が、IT革命にはエネルギーと通信が必要だった」とフアン氏。「AIという新しい産業革命には、新たなインフラストラクチャが不可欠なのです」
応用例として、自動運転車の映像を基地局のAIが解析して安全運転を支援したり、工場の監視カメラ映像をAIが分析して異常を検知したりするユースケースを示した。物理的なインフラをAIで制御する新たな可能性を切り開く取り組みともいえる。
「データ主権」時代の国家インフラへ
今回の提携の背景には、AIインフラを国家レベルで整備する必要性が高まっているという世界的な潮流がある。
「国民のデータは、その国の知識や文化、知性を符号化したものであり、それは国家に帰属します」とフアン氏は指摘する。「各国がそのデータを処理し、自国民のためのAIへと変換していく。それを他国に委ねることは合理的ではありません」
孫氏も「これは国家安全保障の問題です」と同調する。「各国政府は国家安全保障に関わるデータを、自国のAIデータセンターに移行する必要がある。それは今後、各国で規制の対象になっていくでしょう」
こうした議論は、従来の金融システムなどでも重要視されてきたデータ主権の考え方が、AI時代においてさらに重要性を増していることを示している。ただし、AIインフラには新たな特徴がある。それは単にデータを保管するだけでなく、そこから新たな価値を創造する「生産基盤」としての性格だ。
「これはソフトウェアの産業ではなく、インテリジェンスを製造する新しい産業なのです」とフアン氏は強調する。従来のソフトウェアは一度インストールすれば完成だが、AIは継続的な学習と改善が必要で、24時間365日稼働する「工場」のような基盤が求められるという。
このため、製薬企業は創薬AI、自動車メーカーは自動運転AI、ロボットメーカーはロボティクスAIというように、「全ての企業がAIを製造することになります。企業がAIを生み出さないという選択肢はありません」とフアン氏は指摘。「チップを作る必要も、ソフトウェアを作る必要もありませんが、インテリジェンスは生み出さなければならない。どの企業も、どの国も、インテリジェンスを生み出さないわけにはいかないのです」
孫氏は「少なくとも日本政府はAI革命を抑制しようとはしていない。むしろ、より積極的な支援が期待される」と語り、国を挙げてのAI開発支援に期待を示した。
日本の産業競争力復活なるか
「日本ほどロボティクスAI革命を主導するのにふさわしい国はない」。フアン氏は講演の中で、日本の製造業の底力に強い期待を示した。
実際、世界の産業用ロボットの50%は日本企業が製造しており、川崎重工業、ファナック、安川電機、三菱電機の4社だけで世界シェアの過半を占める。「メカトロニクス技術で日本に勝る国はありません。この強みとAIを組み合わせることで、大きな可能性が開けるはずです」(フアン氏)
一方、過去30年のIT革命では日本は主導権を握れなかった。孫氏は「日本の大企業は『モノづくり』に価値があり、ソフトウェアは仮想的で信頼できないという考えが長く続いた」と分析。「特にネットバブル崩壊後、若い起業家たちの意欲が失われてしまった」と振り返る。
しかし、今回のAI革命は様相が異なるという。「これは完全なリセットの機会です。前の時代を制した企業も、この新しい時代ではうまくいっていない。技術基盤から応用まで、全く新しい産業構造と機会が生まれているのです」
実際、NVIDIAと協業する日本の企業・研究機関は着実に増加している。大規模言語モデルの開発では理化学研究所や東京大学、楽天、NTT、富士通、NECなどが取り組みを加速。AI基盤では、産業技術総合研究所やソフトバンク、さくらインターネット、GMOインターネットグループなどがクラウドサービスを展開している。
「メカトロニクスとAIの融合」という日本の強みを生かせる分野では、安川電機、トヨタ自動車、川崎重工業などが開発を本格化。医療機器でもキヤノン、富士フイルム、オリンパスなどがAI活用を進めている。
「ビル・ゲイツは『全てのデスクトップにPC』を掲げ、スティーブ・ジョブズは『全ての手にスマートフォン』を掲げました。今、私たちは『全ての人にAIエージェントを』と言うべきです。一人一人が自分専用のパーソナルエージェントを持つべきなのです」と孫氏は語り、一人一人が生まれた時から持つ「第二の体」のようなAIの実現を展望した。
今回発表されたAIインフラは、こうした日本企業の挑戦を支える基盤となる。フアン氏は「もし日本がなければ、NVIDIAは今日存在していなかったでしょう」と語り、日本での最初のAIスーパーコンピュータ開発などの歴史的な貢献に感謝を示した。
産業用ロボットで世界を席巻した1980年代のように、日本は再び技術革新の最前線に立てるのか。両氏が描く国家規模のAIインフラ構想の動向に、注目が集まる。
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