「これじゃなーい!!」と子供が叫ぶような、絶妙な偽物感が売りの「コレジャナイロボ」。制作したのは武笠太郎さんと坂本嘉種さんのユニットである太郎商店だ。2人の発想力の源泉は――。
プレゼントを開けた子供が「欲しかったのはこれじゃなーい!!」と叫ぶような偽物感が売りの「コレジャナイロボ」。昔のアニメで見たような「自爆ボタン」――。コレジャナイロボや自爆ボタンを生み出した太郎商店は、武笠太郎(むかさ・たろう)さんと坂本嘉種(さかもと・よしたね)さんの2人のユニットだ。
2人の出会いは大学時代の音楽サークルにさかのぼる。学食の片隅で「あんなの面白い」「こんなのあったら楽しい」と毎日のようにダベっていた。あの頃は、ただ面白いだけで話を続けていたが、今は現実の仕事になった。
卒業後、会社に勤めながら武笠さんが太郎商店を立ち上げた。その後、坂本さんが合流。2004年には2人ともそれぞれ勤めていた会社を退職し、太郎商店を社内レーベルとした有限会社ザリガニワークスを設立した。2人が世に送り出す面白バカグッズが生まれる背景に、どんな仕事術が隠されているのか探ってみた。
坂本さんが好きなヒーローが、さいとう・たかを原作の「超人バロム・1」。友情バロメーターが高まった主人公2人組が腕をクロスさせるとバロム・1という1人のヒーローに変身する懐かしの特撮モノである。バロム・1同様二人三脚のザリガニワークスはどのように仕事しているのだろうか。
プロダクトを作る分担でいえば、企画は武笠さん、具体的なデザインを決めるのは坂本さんだ。性格は正反対かもしれない。直感的なひらめきは武笠さん、論理的に検証するのが坂本さんなのだ。例えば、武笠さんがひらめいた「コレジャナイロボ」だが、当初、坂本さんは「マジで? 本当に売るの?」と懐疑的だったという。
2人の作業はいつもこんな感じなのである。武笠さんが荒削りで冗談のようなアイデアを坂本さんに話す。それを坂本さんが論理的に修正しながら考えをまとめる。武笠さんの漠然としたアイデアを坂本さんが要素に分解して形にする。こうしてザリガニワークスの商品ができあがる。
2人が面白いと共感しなければ製品にはならない。つまり、製作過程のやり取りは、お互いの共感を探る作業でもある。2人の共感が“バロムクロス”しないと、ザリガニワークスの商品にはならないのだ。
仕事部屋は、表参道の脇に入った住宅地にあるアパートの一室。10坪ほどの空間に2人のデスク、ミーティング用のテーブル、コピー機、グッズ製作用の機械と製作中のグッズの部品たちやディスプレイされた商品たちがひしめき合っている。決して広いとはいえない空間に男2人きりで1日のほとんどを過ごす。喧嘩などのトラブルは起きないのだろうか。
「殴ったり蹴ったりするほどさわやかじゃないんですよ。強い口調では言わないけど、イヤなこと言うみたいな感じです(笑)。率直に言って、お互いに感じ悪くなります」という坂本さんに武笠さんが付け足す。「感じが悪くなることが大切なんです」
意見が対立すると、解決するまでぶっちゃけ合うのが2人の暗黙のルール。対極のことを戦わせると、お互いのアイデアを認識し、新しく生まれるものもあるからだ。「言いたいことは話す。しゃべりたくないことはしゃべらないし、しゃべりたければどっちか勝手にしゃべっているという時もあります。仕事に関しては信頼関係がありますね。何も言わなければこれでいいんだろうなって」
バロム・1はお互いの信頼度が低くなるとパワーが下がり、最悪変身も解けてしまう。グッズ界のバロム・1は、お互いの“感じが悪くなる”ことでパワーを蓄えるのかもしれない。
今ではザリガニワークスの社内レーベルとなった太郎商店は、そもそも武笠さんが会社に勤めながら1人で始めた。趣味でシルバーアクセサリを作り、東京ビッグサイトで開かれるアジア最大級アートイベント「デザインフェスタ」に出展した。デザインの路線はいいはずだ。アートユニット「明和電機」を手伝った経験も自信になった。結果は、全く売れなかったのである。数あるブースの中で足を留めてもらい、なおかつ買ってもらうには1000円以下にする必要があった。
こうして安価な商品を考えて作ったのが「自爆ボタン」だった。翌年のデザインフェスタで販売したところ、あっという間に完売。自分の作ったものが売れる楽しさを知ったという。
武笠さんと坂本さんの再会は、自爆ボタンの次作「アクションリング」の制作中だった。大学時代の先輩である坂本さんにイラストを依頼したところ、あれこれと口出ししてくる。それなら「コンビでやったらいいじゃないですか」と武笠さんが誘って、ユニットとしての太郎商店が始まった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.