Web解析とは何か──。いまや企業にとって持っているのが当たり前のWebサイトだが、効果的に活用できている企業とそうではないところでは大きな差が生まれている。違いを生むのはWeb解析だ。オーリック・システムズのWebマーケティング事例セミナーで話された、ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)の事例を元に、経営に生かすWeb解析とは何かを探る。
「PVが上がった、下がった──」。Webサイトのマーケティングで、そんな一喜一憂をしていないか。Web解析はすでに、企業の経営に直結する重要指標になってきている。Web解析の結果をビジネス運営の指標(KPI:key performance indicator)として活用し、経営に生かし始めている企業も増加中だ。
ではどんな考え方で、どんな体制で、どんな方法でWeb解析を経営に活用すればいいのか。10月2日にオーリック・システムズが主催した「Webマーケティング事例セミナー」の模様から、それを読み取ってみよう。
「Web解析とは、一言でいうとビジネス運営の指標──KPIを得ることだ。この指標とは一目見て、対応し、行動が起こせるもの」
こう話したのは、Webマーケティングの最新トレンドと題して壇上に上がったオーリック・システムズの幾留浩一郎社長だ。Web解析ツール「RTmetrics」を提供する同社では数多くの企業にソリューションを提供しており、「販売数や売上が増えた」「広告やマーケティング費用を削減できた」「商品在庫管理を最適化できた」といった声が顧客から寄せられているという。
こうした例を基に、「(Web解析は)数年前は何でやるの? という位置づけだった。今では必須になっている」と幾留氏は話す。
数年前なら、より多くの利用者がサイトに来てくれればよかった。「今では来てくれるだけでは不十分。最終的な結果にどれだけつながるかが重要だ」(幾留氏)
幾留氏は、来訪者数やPVだけに目を向けるやり方では、いまや効果を上げられないと警鐘を鳴らす。例えば広告宣伝を行い瞬間的に来客数が増えても、それを生かし切るには事前の綿密なWeb解析が重要になる。「集客して訪問者が増えると、普通はコンバージョン(成約率)が低下する。(オーリックのソリューションを入れた)あるサイトの場合、準備をしておいたので来客を成果に結びつけられた」
Web解析は、結果に一喜一憂するものではなく、解析してビジネスとしての結果に結びつけていくものだと幾留氏。「Webのログは、ほとんどゴミの山。ものすごい量のゴミのようなものだ。量が膨大で処理も難しい。しかしこの中に宝が入っている」
一見ゴミの山に見える中から、いかに宝を見つけて経営に役立てていくか。その視点で作られているのが同社のWeb解析ソリューション「RTmetrics」だ。従来多かったログ解析型やビーコン型とは異なる、パケット解析方式を採るRTmetricsでは、リアルタイムに解析結果を表示し、素早い対応が可能。そして日本で特に重要な携帯電話からのアクセスに対応できることなどを、幾留氏は利点として挙げた。
ツールから課題解決のプラットフォームへ──。数値を単に見られるだけではなく、経営上の課題解決につなげることができることを目指すのが同社のWeb解析ソリューションだ。では、実際の現場では、どのようにRTmetricsが経営に生かされているのだろうか。
RTmetricsを使った成功事例として、ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)での活用法を語ったのが、続いて講演を行った中澤伸也氏。マーケティング本部データマイニングチームのリーダーを務める人物だ。
GDOは月間来訪者が310万人(310万UU)、ページビューが月間1億3000万を超える巨大サイト。日本最大級のゴルフポータルサイトである。2000年の創業以来成長を続け、2007年に入り過去最高となる実績を次々と上げた。
「その大きな要因の1つは、Webマーケティングデータの活用が活性化したこと」だと中澤氏は話す。
Web解析データを実績に結びつけるために、GDOはどんなことを行ったのか。中澤氏は、その組織面に注目して3つの条件を挙げ、特に「3つ目の条件」の重要性を指摘している。
1つは経営陣がWebデータの活用に理解と意欲を持っていること。これがないと次のステップに進むことはできない。2つ目は、データ分析や活用を推進する専門部隊の存在。しかし「ここで終わると、各事業部や担当レベルまで使ってもらえない」。つまり実績に結びつけられない。
重要なのは3つ目の、分析結果や知見を日々の事業活動に生かす体制があることだ。「これができていないと、Web解析のリポートを提出しても、数字を見て『なるほど』で終わってしまう。データの分析に主眼を置くのではなく、データを活用する組織力を上げるべきだと考えた」(中澤氏)
Web解析を実績に結びつけるには、経営陣から現場までデータを生かして実践する組織体制を作ること。そんなポイントがここから浮かび上がってくる。
GDOでは、Web解析データをKPI指標(重要業績評価指標)と位置づけ、予実管理を徹底。具体的なアクションに落とし込むことに成功した。ポイントはどこにあったのか。
「(Web解析データは)結果だけ見ていても、単なる分析で終わってしまう。業績評価指標として体系化し、取り得るアクションまで“細分化”した上で、“予実実績管理”をしないと定着して活用されない。(担当者レベルで)どんなアクションを取ったら、どれくらい指標が向上するか肌感覚で分かることが重要だ」
中澤氏の元で、
を行い、それが実績に結びついていったわけだ。
さらにここから、各人のアクション(行動記録)とWeb分析指標の変化を紐づけて蓄積。こうしたナレッジをためていくことで、「指標の変化から結果が予想できるようになってくると、改善アクションがすぐ取れるようになる」のだという。
流れ | アクション |
---|---|
どの指標を改善するために | 送客率を向上させるために |
どのようなアクションを | クリックマップを作成しレイアウトの変更を検討し |
どのように行い | クリック率の高いコンテンツを上部に移動 |
結果どうなったのか | 送客率が40%から50%に改善した |
例えば、メールマガジンの送付に関してこんな議論が社内で行われる。「この部分のクリックがこんな数字だったので、こうレイアウトを変えてみたいんですという提案が現場から出てくる。次回のミーティングでは、その結果を検証する」(中澤氏)
GDOの重要な収益の柱が、ゴルフ用品のネット販売と、ゴルフ場のオンライン予約サービスだ。これらの受注系の指標とWeb解析データとの連係にも、同社はすでに取り組んでいる。
「Web解析データは“プロセス指標”。何が売れたかの“結果”ではなく、なぜ売れたのか、売れなかったのかの“理由”を探るためにこそ重要だ」(中澤氏)
例えば受注量と在庫量、閲覧ページ数のデータを組み合わせて読み解くことで、販売にどんな問題が起こっているのかを把握できるという。次に挙げるのは、その一部の例だ(以下はECサイトに当てはめた場合の例。GDOでは同様の分析を「予約」においても行っているという)。
PV数増加傾向にも関わらず、途中で在庫切れにより、受注数失速。機会ロス発生のパターン。
販売開始時に高いPV数と受注を獲得するも、急速に関心が薄れPV数減少。在庫の絞り込みが間に合わず、在庫過多発生のパターン。
PV数増加傾向、在庫は一定数確保されるも、受注数が急速に失速。市場と競合の価格動向が変化した可能性が高いパターン。
すでにWeb解析データの経営的活用を実践しているGDO。Web解析が経営指標として現場レベルまで生かせることを証明した今、今後さらなる分析の強化を目指している。
1つはCRMの高度化だ。サイト訪問者が、最近買い物に来たのはいつか、今までに何回購入しているか、今までにいくら購入しているか──Recency(最終購入日)、Frequency(購入頻度)、Monetary(購入金額)のいわゆるRFM分析とWeb解析の連携が重要だと、中澤氏は説く。顧客属性と連携して分析することで、アクションの精度がより上がっていくというわけだ。
2つ目はクリック&モルタルへの対応。利用者はWebだけを見ているわけではなく、通勤中だったり会社のPCからアクセスしていたり、もしかしたらゴルフの用品店に向かう前にチェックをしているのかもしれない。ストーリー性を持った分析を行うことが重要だ。
3つ目はコンテンツの新たな評価基準だ。マーケティングの概念として有名なライフタイムバリュー(LTV:顧客生涯価値)をWeb解析に当てはめると、PVやUUといったこれまでの指標が最適ではない可能性が出てくる。経営的に実績を上げていくために最適な指標──評価基準とは何なのかを模索していくという。
PVに一喜一憂するためではなく、経営の重要指標としてのWeb解析──。GDOの例からも分かるように、Web解析ソリューションの導入は、経営層から現場まで、ビジネス上の実績につなげることが可能になっている。
いわゆるアクセス解析のツールから、経営に直結するプラットフォームへ。Web解析に対する考え方、使われ方が、解析ソリューションの発展とともに、大きく進化してきたことを実感できるセミナーだった。
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提供:オーリック・システムズ株式会社
制作:ITmedia Biz.ID編集部/掲載内容有効期限:2008年1月28日