法律上は、他者の権利を侵害すると罪になる。倫理上は、侵害を意図しただけで罪になる名言で読む「リーダーの必読書」(1/2 ページ)

その瞬間、車が急発進し、母はあっけに取られた。母は慌てて車の後を追いかけた。ところが、車はさらにスピードアップし、母は高速道路の路肩に1人ポツンと残されてしまった。

» 2009年10月30日 08時44分 公開
[フランクリン・コヴィー・ジャパン,Business Media 誠]

 法律上は、他者の権利を侵害すると罪になる。倫理上は、侵害を意図しただけで罪になる。

――イマニュエル・カント

 ここで、私の両親の面白い体験を紹介したいと思う。2人には怒られるかもしれないが、この後私が述べることが理解しやすくなると思うからだ。

 今年の冬のある日、私の父、スティーブンと、母、サンドラは、滞在していたモンタナの別荘を出て家路に着いた。その日の朝、家族でスノーモービルに興じたため、2人はくたくたに疲れていた。これでは車の運転は無理と思った父は、車に乗ると後部座席で横になってすぐに眠ってしまい、母がハンドルを握った。

 2、3時間すると母も睡魔に襲われ、目を開けていられなくなった。それで、車を高速道路の脇に寄せると父を起こし、運転を代わってほしい、今度は私を眠らせてと言った。交替するため、2人は車のドアを開けて外に出た。父が運転席に滑り込むと母はそのドアを閉め、後ろの座席に乗り込もうとした。

 そのとき母は急に、2人が最近買ったその車は、車体を上げ下げできる特殊な機能が付いていることを思い出した。母は膝を痛めていたので、「車体を下げてくれない? その方が乗りやすいから」と父に言って、その操作ができるようにドアを一度閉めた。

 するとその瞬間、車が急発進し、母はあっけに取られた。冗談好きな父がふざけて自分を置いてきぼりにしようとしているのだなと思って母は慌てて車の後を追いかけた。ところが、車はさらにスピードアップし、母は高速道路の路肩に1人ポツンと残されてしまった。

 冬の寒さの中、コートはおろか靴も脱いでいた母は、冗談にしてはひどすぎる、夫が戻ってきたらこの怒りをぶつけてやろうと思った。そして、高速道路上で1人凍えながら10分ほど待った頃、母はようやく気づいた。夫は自分が車に乗り込み、後ろで寝ていると思っているのでは、と。

 車体を下げてほしいという母の声が、どうやら父には聞こえなかったようだ。それで、後ろのドアが閉まった音を聞いて、母が車に入ったと勘違いした。母もひどく疲れていたことを知っていたため、父は母が柔らかな枕と温かな毛布にくるまれてすぐに眠りに落ちたと思ったのだ。母はあちこち立ち寄ってはトイレを借りたり、スナック菓子を買ったりするのが好きだったので、ずっと話しかけずにいれば母は眠ったままで、家に早く着けると父は考えていた。

 幸いにも、父に置き去りにされて車の後ろを追いかける母の姿を、別の車を運転する男性が目撃していた。その人はハイウェイ・パトロールに電話し、ある男が道路脇に女性を置き去りにしたと通報した。

 間もなくしてパトロールカーがやって来て、母を収容した。パトロール隊員は母に何があったのかと尋ねた。

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