謝るべき場面ではないのに、やたらと「すみません」を使ってしまうことは多い。特に、そこに上下関係があると、上司に気づかうためか、部下がなんども「すみません」と言ってしまうこともある。
例えば、こんな会話を耳にしたことはないだろうか。
「すみません、報告書仕上げたので、見ていただけますか?」
「分かった。夕方までに見ておくけど、それで大丈夫?」
「はい、すみません」
「謝らなくていいよ」
「あ、すみません」
「だから、謝らなくていいから」(笑いながら)
「は、はい、すみません」
「……(苦笑)」
上司や先輩としても、責めてなどおらず、詫びてほしい場面でもないのに、こう「すみません」を連発されると気になってしかたない。
この会話、こういう風に言い換えられるはずだ。
「恐れ入りますが、報告書を仕上げたので、見ていただけますか?」
「分かった。夕方までに見ておくけど、それで大丈夫?」
「はい、お願いします」
あるいは、
「お手数ですが、報告書を見ていただけますか?」
「夕方までで大丈夫?」
「はい、夕方までに見ていただけると助かります。ありがとうございます」
自信がない、上司が怖い、突っ込まれたくない……さまざまな理由で、つい「すみません」を使ってしまうのかもしれないが、「すみません」なしでも会話は成り立つ。
できれば、「すみません」は、相手に詫びる必要があるときに限定して使い、それ以外の場面では、「ありがとう」「恐れ入ります」「お手数ですが」「助かります」「感謝します」など他の表現に置き換えたいところだ。「すみません」はどうしても、ネガティブなニュアンスが漂ってしまう。「ありがとうございます」「助かります」「お願いします」といった肯定的な表現を使うほうが、互いの気分に好影響を及ぼすのではないかと思う。
講師として大勢の前に立つことが多い私は、セミナーなどの休憩時間後、全体が少しざわついているような場面で、受講者に対してつい「すみませ〜ん、始めますよぉ〜」と呼びかけてしまうことがあった。こういう場合も、「皆さ〜ん、始めますよぉ〜」「はい、始めますよぉ〜」でよいはずだ。
私は、詫びる、謝るという場面でない限り、極力「すみません」を使わないよう意識するようになり、言い回しに工夫をするようになった。
お礼を言うべき場面であれば、「すみません」ではなく、「ありがとうございます」と言う。例えば、落ちたものを拾ってくれた人がいたら、「ありがとうございます!」といって受け取る。大きな荷物を抱えている時、ドアを開けて待ってくれる人がいれば、「すみません」と言わず、「恐れ入ります」とか「助かります」と礼を述べる。エレベーターを降りる際、「開」ボタンを押してくれる人がいれば、先に降りる際、「ありがとうございます」と軽く会釈をする。いずれも多くの人が「すみません」と言ってしまう場面だ。
毎日何気なく口にしてしまう「すみません」を少し減らすようにする。肯定的な表現、前向きな言い回しをしていると、「すみません」と言いそうになる自分の自信のなさも克服できるかもしれない。どのような状況でも、誰に対してでもつい「すみません」と“謝って”しまう癖がある人は、「他の表現」に一つでも置き換えてみることから始めてみてはどうだろう。
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
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