「子会社系SIer」で深刻化する“忙し過ぎ問題” 最も不足している意外なIT人材とは?

野村総合研究所が実施した調査によると、国内の情報・デジタル子会社は「人材不足」や「案件過多」といった課題が2021年の前回調査時より悪化している。これらの問題を解決するための親会社との関係構築の在り方について同社が提言した。

» 2024年05月02日 14時15分 公開
[金澤雅子ITmedia]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 野村総合研究所(以下、NRI)は2024年4月26日、国内の情報・デジタル子会社(注1)を対象にした「情報・デジタル子会社における今後の方向性と課題に関する調査」の結果を発表した。

 同調査は、日本国内に本社を持ち、売上高上位企業に当たる情報・デジタル子会社を対象に2024年2月に実施され、31社から有効回答を得た。

(注1)日本国内に本社を持ち、親会社からの出資によってIT、デジタルサービスを提供している子会社を指す。IT、デジタルサービスには、親会社・グループ内企業に対する内販サービス、グループ外企業に対する外販サービスのいずれかまたは両方が含まれる。孫会社またはIT、デジタルサービス提供企業の子会社は対象外とした(ただし、ITベンダーなどによる50%以上の出資によってIT、デジタルサービス提供企業の子会社になった場合は対象とした)。親会社の業種は、機械製造、素材・他製造、建設、小売り、金融、運輸、通信、インフラなど多業種に渡る。

データサイエンティスト不足は改善傾向 最も不足する「IT人材」は?

 今回の調査で、「自社の抱える問題」について複数回答形式で尋ねたところ、「ITを活用した企画力不足」(67.7%)との回答が最多で、「プロジェクトマネジメント力の不足」(64.5%)、「人材数に対して案件過多」(54.8%)が続いた。2021年に実施した同様の調査結果と比べると、「IT企画力の不足」という回答は同水準(4.9ポイント減)だったが、「プロジェクトマネジメント力の不足」との回答は28.3ポイント増加し、問題がより深刻化していることが分かった。

自社の抱える問題意識(出典:野村総合研究所のプレスリリース)

 同調査ではITやデジタルサービスに対する、親会社ないし外販先企業からの要請や期待が高まっている現状が見てとれるとNRIは分析する。その一方で、企画や実行の局面で必要とされるスキルを持つ人材の不足に危機感を覚える企業の割合が増えていると指摘する。

 職種ごとの人材の過不足感について複数回答形式で尋ねたところ、最も不足感が高かったのは「プロジェクトマネジャー」(32.3%)だった。「ITストラテジスト」(25.8%)、「ITアーキテクト」(25.8%)が続いた。

職種別にみた人材の過不足感(出典:野村総合研究所のプレスリリース)

 特に注目すべきなのは、近年注目が集まるデータサイエンティストが不足しているとの回答が前回調査と比較して19ポイント減少する一方で、従来IT分野の主要職種であるプロジェクトマネジャーが不足しているという回答が21.7ポイント増加した点だ。

 「プロジェクト管理能力を持つ人材への需要が高まり、各社獲得競争が激しい状況だ」とNRIは分析する。こうした環境を踏まえると、外部人材を採用するのではなく、自社内の業務効率化や生産性向上によるリソース捻出と、プロジェクトマネジャーの早期育成を念頭においた計画的なプロジェクトへのアサインが現実的かつ有効な策になるというのが同社の見立てだ。

 企画力が求められるITストラテジストやITアーキテクトも同様に獲得競争が厳しい状況だ。NRIは「社内人材の企画力向上を図るために、親会社やグループ会社への異動を含めて抜本的な業務の見直しを経験することや、業務の上流工程シフトが有効だ」と提言する。

親会社との関係性構築、何から始めるべき?

 案件過多に対する効果的な取り組みを探るため、同調査では案件情報を親会社と共有している企業を対象に、どのように実施しているのか、さらにその取り組みは効果を出しているのかを尋ねている。

 「十分な効果が得られている」との回答を集めた上位3つの取り組みは「親会社から案件情報の共有(期中にも実施)」(85%)、「親会社と共同で案件の優先順位付けを実施し、適正な案件数を調整」(69%)、「親会社と共同で予算策定段階から入り込み、受注案件をコントロール」(62%)だった。親会社と適切な頻度でコミュニケーションがとれ、対等に折衝できる関係を築いている企業では、案件共有が有効に機能しているとNRIは分析する。

親会社との案件情報の共有に関する施策の実施状況(案件過多についての取り組みの有効性評価別、複数回答)(出典:野村総合研究所発表リリース)

 一方で、親会社に対する問題意識を尋ねた質問に対しては、「業務要件が定まらないままシステム開発に着手」と回答した企業が46.4%に達し、「親会社と対等な関係で折衝できない(下に見られる)」という回答も42.9%に上った。前回調査でも、これらの2項目は40%以上の企業が選択していた。

 親会社と建設的なコミュニケーションをとるためにはどうすべきか。「自社の立ち位置と今後の在り方に関して親会社との対話を始める必要がある。親会社の事業におけるデジタル、ITの果たす役割や方向性を共に明確にする必要がある」とNRIは提言する。

親会社に対する問題意識(複数回答)(出典:野村総合研究所のプレスリリース)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ