“性格を変えるより行動を変える”という言い方をすると、「じゃあ、腹の中は真っ黒でもいいのか」「人はやはり人格を磨くべきではないのか」と反論する人もいるが、いきなり「性格」や「人となり」を変えようと思っても、そううまくいくものではない。
周囲とうまくやっていくためには、聴き方や話し方、振る舞いなどが大きく影響する。それなら、まずは、「使う」と心に決めさえすれば誰でも試せるスキルを日常に取り入れることから始めた方がハードルが低くなると思うのだ。
スキルを使っているうちに、例えば相手の話をきちんと聴けるようになり、自分と異なる価値観やものの見方も受け入れられるようになれば、結果的に、以前よりは、“性格”がよくなったり、“人格”が高まったりすることもあるだろう。
そういう順番でもよいのではないだろうか。
まずはスキルを学んで使ってみる。それだけでうんと生きやすくなるはずだ。
米国で学んだ中に「Assertion」があった。相手に配慮しつつも自分の言いたいことを明確に伝えるスキルである。このスキルを使ってみたら、周囲との衝突がかなり減った。
例えば、誰かに文句を言いたいことがあったとする。
以前なら、「どうして、○○ができていないんですか!?」と、正しいと思うことを直接的な表現で悪びれることなく伝えていた。しかし、Assertionを学んでからは、相手にも事情があったかもしれないとも考えるようになり、「○○ができていない理由を教えていただけますか」と丁寧に言えるようになった。そのうち、相手との感情的なトラブルも減ってきたのだ。
これを日常の会話に取り入れるだけで、私はうんと楽になれた。
私の性格はおそらく20代のころと変わっていないし、人格者でもない。けれど、20代のころよりコミュニケーション上のトラブルはだいぶ減ってきた。
コミュニケーションの善し悪しを決めるのはその人の資質や性格ではない――。そう思えば、心の重荷もとれるのではないだろうか。
本連載は今回が最終回。ご愛読いただきありがとうございました。これまでお伝えしてきたコミュニケーション上の工夫やスキルを、何か一つでも試してみていただければ幸いです。
6月くらいに新しい連載を始める予定です。どうぞお楽しみに。
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
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