これは本当につらいことだが、実はこれほどあなたを磨くチャンスはない。高くなり始めたあなたの鼻は見事にへし折られ、否応なしにモノゴトの本質を捉えようとする目が磨かれる最高の試練なのだ。
同期の部下になる。元部下の部下になる。元上司の上司になる。同期の上司になる――。だれもがどれかを経験するのではないだろうか。これもまた、組織から与えられる最大の試練だが、あなたを磨き上げるだろう。
このいずれかの立場になったら、完璧なアクターになるしかない。アクター出身の大統領がいるのは、演じることがいかに難しいことか、またそれを完璧にこなせれば、どれほど大きな仕事を任せてもらえるかを示していると思う。
たとえ同期の部下になったとしても、最大の自制心で完璧にその役割を演じれば、また立場が逆転するチャンスが巡ってくるかもしれないのだ。
そもそもあなたの存在は、だれかの犠牲の上に成り立っている。あなたがその会社に入ったことで、だれかが不採用になっている。もっと言えば、あなたの着ている服は、後進国の劣悪な労働環境で縫われたかもしれない。普段はそれに気づかずにいるだけだ。
会社の命令で、どうしてもだれかにつらい思いをさせなければならなくなった時、そのことを思い出そう。もし、あなたがいい人で、だれかにそんな思いをさせるわけにはいかないと思うなら、それはそれでいいと思う。
しかし、ある時点で何人かにつらい思いをさせたとしても、あなたが将来もっと偉くなって何万人もの人生になにがしかの光を与えることができたら、そのほうが社会のためになる。どちらを選ぶかは、あなた次第だ。
残念ながら答えはない。
昔、明治維新で日本が燃えたぎっているとき、「自分の老いた母を見るべきか、維新の運動に命を投じるべきか」と迷う人の話をどこかで読んだ。
正解は1つではない。人の数だけある。
人類の歴史が始まって以来の最大の謎だが、そういうものだ。100点を目指しているなら、常に120点を狙い、それをずっと続けるしかない。
きっと、あなたも一度はそんな目にあう。
だが、それは人生の、あなたの物語のスパイスだ。辛子がピリッときいていなきゃ、美談の良さが引き立たない。あなたの物語を彩ってくれたことに感謝するぐらいの気持ちでいよう。
アンティーク・リサイクル着物を国内外へ販売する「ICHIROYA」代表。昭和34年生まれ。京都大学水産学科卒業後、大手百貨店に入社。家庭用品、販売促進部など。19年勤めたのち、2001年に自主退職して起業。現在に至る。趣味はブログ執筆。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.