相手が乗り気でないときは、中途半端に切り上げる:思うように人の心を動かす話し方
相手が聞く耳をもたない、どうも関心がなさそうだと感じたら、しつこく説明するのは逆効果になるので「詳しい説明は、また次の機会に」などと、話を中途半端に切り上げる。この中途半端な中断が、意外に効果的なのだ。
集中連載「思うように人の心を動かす話し方」について
本連載は、榎本博明氏著、書籍『心理学者が教える 思うように人の心を動かす話し方』(アスコム刊)から一部抜粋、編集しています。
「お1人さま3個までに限らせていただきます」と言われて、つい列を作って並んだり、本当に必要でもないのに商品を3個も抱えてレジに走ったりしていませんか? 実はこれ「今買わないと損!」と思わせて、お客を殺到させたり商品に飛びつかせたりするための、人の心を操る心理テクニックです。
あるいは「話だけでも聞いてください」と言われて、最初はまったく買う気がなかったのに、気付いたらとんでもない買い物をしてしまった……なんていう経験はありませんか? これは“フット・イン・ザ・ドア”と言われる、思うように人の心を動かす心理テクニックの1つです。
はじめからお願いしたら到底受け入れられない法外な要求でも、いつの間にか受け入れさせてしまう魔法のフレーズなのです。
他にも「どうぞ、お座りください」「そうですか、では……」「お隣のAさんもBさんも」など、人の心をぐぐっと動かすキラーフレーズや心理テクニックは世の中にたくさんあふれています。
誰でもすぐに使えて効果絶大な心理テクニックを本書ではたっぷり紹介しています。ぜひあなたも試してみてください!
相手が乗り気でないときは、「中断法」が意外と効果的
あまり乗り気でない相手の注意を喚起する方法に「中断法」がある。
相手が聞く耳をもたない、どうも関心がなさそうだと感じたら、しつこく説明するのは逆効果になるので、話を中途半端に切り上げる。この中途半端な中断が、意外に効果的なのだ。
どんなつまらない話でも、途中で中断されると、なぜか気になるものだ。すべて聞いてしまえば、
「なあんだ、また例の勧誘か」
とすぐに心のなかで切り捨てる類の話でも、中途半端に切り上げられて、
「詳しいご説明はまた次の機会にということにいたしまして、今回は簡単なご挨拶にとどめさせていただきます」
などとやられると、
「もう来てくれなくてよいのだが」
と思いつつも、どうも気になってしまうものだ。
中断された内容のほうが、心に強く残る
テレビ・ドラマなども、ストーリーが盛り上がり、クライマックスに達したところで、コマーシャルになる。視聴者を、
「この先どう展開するのだろう」
と非常に気がかりな心理状況に置いて中断しないと、コマーシャルの間にチャンネルを変えられてしまう。見る側としては、
「ああ、またいい場面で中断だ。もうちょっと先までやってくれればいいのに」
と不満に思うものだが、いい場面で中途半端に終わるからこそ心のなかに引っかかりができ、そのままチャンネルを変えずに見ることになるのである。
いい場面が完結したところで中断したら、気持ちは充足し、中途半端な引っかかりもないので、次の場面への興味は減退してしまう。
記憶の実験でも、完成直前のところで中断された内容は、完結した内容よりもよく記憶されていることが明らかになっている。
これを心理学ではツァイガルニク効果という。中断させられると、どうしても気にかかり、心に強く残るのである。
じつは私なども、気持ちが乗りにくい仕事の場合、わざと中途半端なところで中断しておく。
切りのいいところで中断すると続きを始めるのにかなりエネルギーを要する。だが、中途半端なままだと、何とか切りのいいところまで完成しなければ、との緊張状態が持続しているため、次のとっかかりが楽になるのである。
(次回は「転勤をすんなりと受け入れさせられる話し方」について)
著者プロフィール:
榎本博明(えのもと・ひろあき)
心理学博士。1955年、東京生まれ。東京大学教育心理学科卒業。
東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授等を経て、現在、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした企業研修・教育講演等を数多く行うとともに、自己心理学を提唱し、自己と他者を軸としたコミュニケーションについての研究を行うなど、現代社会のもっとも近いところで活躍する心理学者である。
著書に、『「上から目線」の構造』『「すみません」の国』(日経プレミアシリーズ)、『「上から目線」の扱い方』(アスコム)、『「俺は聞いてない!」と怒りだす人たち』(朝日新書)、『心理学者に学ぶ気持ちを伝えあう技術』(創元社)など多数。
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