転勤をすんなりと受け入れさせられる話し方(2/2 ページ)
ある日突然、海外への転勤を命ぜられたらどうしますか? 家を建てたばかりで、子どものこともある――。転勤するにしても、できればもっと近くにならないものかと思うだろう。このとき「では、海外ではなく国内ならどうか?」と持ちかけられると、すんなり承諾してしまったりする。本当の要求は、無理難題のあとに出すのが効果的なのだ。
ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック
このように単純なものばかりではないが、この種のテクニックをそっと忍ばせた説得はけっして珍しいものではない。
普通ならすんなりと受け入れ難い話でも、無理難題をぶつけられて断ったあとでは、なぜか気やすく受け入れてしまう。そうした心理を証明した実験がある。
「献血をお願いできませんか?」
と歩行者に頼むと、了承してくれた人はほぼ3割であった。これに対し、
「今後数年間、2カ月ごとに献血する契約を結んでくれませんか?」
と、いきなりとても受け入れ難いような要求を出す。当然断られるわけだが、そこで、
「それでは、今回1度だけでいいですから献血をお願いできませんか?」
と頼むと、5割の人が応じてくれたのである。いきなり頼んだ場合の3割と比べてかなり高い比率といえる。
一度相手の要請を断った後は「ちょっと悪かったなあ」という気持ちがあり、次に出されるそれより軽い要請を受け入れやすい心理状態がつくられる。さらに、とんでもない大きな要請のあとに出される小さな要請は、対比効果により実際以上に小さなものに感じられる。それで、いつのまにか受け入れてしまうことになる。
最初に必ず断られるような無理難題をぶつけて断らせておいて、譲歩したふうを装って、より小さな要請(もともと頼みたかったこと)を出すと、こちらの要求が通りやすくなる。これをドア・イン・ザ・フェイス・テクニック(門前払い法)という。
前回紹介したフット・イン・ザ・ドア・テクニックと逆の発想だが、これもなかなか手ごわいテクニックなのである。
(次回は「相手の頭に引き出しをつくる」について)
著者プロフィール:
榎本博明(えのもと・ひろあき)
心理学博士。1955年、東京生まれ。東京大学教育心理学科卒業。
東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授等を経て、現在、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした企業研修・教育講演等を数多く行うとともに、自己心理学を提唱し、自己と他者を軸としたコミュニケーションについての研究を行うなど、現代社会のもっとも近いところで活躍する心理学者である。
著書に、『「上から目線」の構造』『「すみません」の国』(日経プレミアシリーズ)、『「上から目線」の扱い方』(アスコム)、『「俺は聞いてない!」と怒りだす人たち』(朝日新書)、『心理学者に学ぶ気持ちを伝えあう技術』(創元社)など多数。
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