相手の頭に引き出しを作る:思うように人の心を動かす話し方(2/2 ページ)
何かを話すとき「言いたいことは次の3つです」と事前に明示しておくと、相手は頭の中で引き出しを作り聞く準備をするので、話が伝わりやすくなる。また、分かりやすいだけでなく、頭脳明晰な人といった良い印象を与えることもできるのだ。
相手のレベルに応じて結論の出し方を変える
ところで、相手を説得したいとき、こうしてほしいという結論を最初に明示したほうがよいかどうかとなると、ちょっと微妙な問題になる。それは、聞き手の知的レベルによって異なるからだ。
一般に、あまり物事を深く考えないタイプに対しては、最初に結論を明示するやり方が分かりやすくてよい。そうでないと、こちらが何を要求なり提案なりしているのかを理解してもらえない。結局、
「何が言いたいの?」
ということになってしまう。
反対に、物事を深く考えるタイプには、結論を保留し、こちらが望む結論に至るのに都合のよい判断材料を並べて、本人に考えさせる。こちらの望む結論を本人が出すように誘導するという、高等テクニックが効果的である。
自分の思考能力、判断能力に自信のある人は、最初に結論を示されると押しつけがましく感じ、反発したり、懐疑の姿勢を強めたりしやすいからだ。
説得される側として注意すべきは、目の前に示されたデータをたどっていくと、どうしても相手の思い通りの結論に達してしまうが、それらの有無を言わせぬ説得力をもつ証拠類は、相手側に都合のよいデータばかりを寄せ集めたものだということである。
違った結論を導き出すような別のデータもあり得るということを、忘れてはならない。
(次回は「くつろぎの演出で、相手の心を無防備にする」について)
著者プロフィール:
榎本博明(えのもと・ひろあき)
心理学博士。1955年、東京生まれ。東京大学教育心理学科卒業。
東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授等を経て、現在、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした企業研修・教育講演等を数多く行うとともに、自己心理学を提唱し、自己と他者を軸としたコミュニケーションについての研究を行うなど、現代社会のもっとも近いところで活躍する心理学者である。
著書に、『「上から目線」の構造』『「すみません」の国』(日経プレミアシリーズ)、『「上から目線」の扱い方』(アスコム)、『「俺は聞いてない!」と怒りだす人たち』(朝日新書)、『心理学者に学ぶ気持ちを伝えあう技術』(創元社)など多数。
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