NTTドコモが2年以上同一端末を使ったユーザーを対象に、新品の電池パックを無償提供すると発表した(1月31日の記事参照)。この施策は気に入った端末を長く使いたいユーザーにとって朗報であるし、携帯電話の製造・リサイクルエネルギーを鑑みれば環境貢献としての評価もできる。
しかし、黎明期からの携帯電話ビジネスを知る身としては、ちょっとした驚きも隠せない。なぜなら、日本の携帯電話ビジネスにおいて、端末の電池パックはユーザーのもとに仕掛ける“時限爆弾”だったからだ。
ここには歴史的な背景がある。サービスの主体が音声通話のみだった1999年までは、キャリアは時限爆弾を設置する必要があまりなかった。新端末と旧端末でサービス面の差がなく、キャリアの収入は基本的に同じだったからだ。
しかし、1999年のiモード登場以降、状況が変わる。コンテンツサービスはパケット料金という新たな収入源を生みだした。しかもパケット料金収入は、音声通話と異なり、機能の進歩によって増加する「打ち出の小槌」である。新端末を早期に普及させることが、コンテンツプロバイダーに新サービス対応を促し、ユーザーのデータ通信ARPUを向上させるための必須条件になった。
しかし、インセンティブを厚くして機種変更を促すのは、キャリアの負担が大きい。そこでユーザーに定期的な機種変更を促す手段として注目されたのが、「電池パック」の寿命である。
携帯電話で用いられる電池は一般的にみてかなり高性能だが、絶え間ない充放電によって劣化が進むのも早い。1年半から2年も経てば、「電池が持たなくなった」と実感できる。キャリアはこのタイミングを見越して機種変更が手頃になるような価格設定やポイントサービスを行い、一方で、電池パックの交換・既存端末の継続利用を積極的に促すような施策はあまり採ってこなかった。電池パックは一般ユーザーに機種変更を促すサインであり、ある種の時限爆弾だったのだ。
しかし今回、ドコモは購入後2年が経過した端末の電池パックを無料交換するという。これは既存ユーザーを重視する最近のドコモらしい施策だが、その背景には2006年の番号ポータビリティ(MNP)対策が垣間見える。電池パックの劣化はこれまで機種変更のタイミングであったが、MNP実施前後はキャリア変更のタイミングになる可能性があるからだ。特に最大手のドコモは、そのリスクが大きい。無料交換の実施タイミングや、1契約1回しか利用できない点からも、「2006年前後の時限爆弾の発動を止めた」とも考えられる。
パケット料金定額制の実現によって、「新端末=ARPU増大」の構図は崩れた。しかし、おサイフケータイの早期普及には、新端末への買い換えを促す必要性はあったはずだ。それを押してまでドコモが時限爆弾のスイッチを切ったのは、それだけMNP対策を重視しているからだろう。
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