電波で情報を送れる仕組み 1 塩田紳二のモバイル基礎講座 第5回: (2/5 ページ)

» 2005年06月13日 04時27分 公開
[塩田紳二,ITmedia]

 音に関する現象で「うなり」というものを聞いたことがあるとおもいます。これは、2つの音が混ざったときその周波数の差が音として聞こえる現象です。2つの周波数f1とf2の波が混ざったとき、その差(f1-f2)が聞こえているわけです。波形として観測すると実際には(f1+f2)の周波数の音波も出ています。

 このように周波数の違う波の合成では、2つの周波数の和と差に応じた周波数成分が必ず現れます。取りあえず理解してほしいのは、変調によって、搬送波は、ベースバンド信号に応じた帯域の広がりを上下方向に持つということです。

いろいろなデジタル変調方式

 変調にはさまざまな方式があります。下図は、CDMA方式に代表される「二次変調方式」の概念図です。1回変調された搬送波に対して、さらに拡散処理を行うため“二次”と呼ばれます。今回は一次変調のところまでを解説します。

二次変調方式の概念図。実際の機器では、変調を2回に分けて行わないこともある

 ここでは、デジタル信号に限って変調の話をすることにしましょう。というのは、音声などのアナログ信号では、その変化が段階的に行われるのに対し、デジタル信号は1か0のどちらかで瞬間的に大きな変化をするため、アナログ信号とは違う考え方が必要になるからです。

 昔の無線通信には、音声とモールス符号によるものの2つがありました。このモールス符号による通信では、変調をKeyingと呼びます。モールス通信では、搬送波に対して、変調状態と無変調状態を電鍵(Key)で切り替えていました。これを受信すると、音が断続して聞こえるようになります。電鍵を押している状態とそうでない状態の2つしかなく、いまから見れば、デジタル通信の元祖のようなものです。このときの名残から、モールス通信では、変調と言わずにKeyingという呼び名が残り、いまでもデジタル通信に関わる名称として残っています。ただし、最近考案されたデジタル変調方式では、Keyingを使わずにModulation(変調)という用語を使うこともあります。また、日本では、Keyingも「変調」と訳すことが多いようです。

 変調は、搬送波を変化させるものであり、何を変化させるかで大別することができます。一般的には、振幅を変化させる方法(ASK)、周波数を変化させる方法(FSK)、位相を変化させる方法(PSK)の3つです(図)。

搬送波を何で変化させるかによって変調が決まる。上から、振幅を変化させる「ASK(Amplitude Shift Keying)」周波数を変化させる「FSK(Frequency Shift Keying)」位相を変化させる「PSK(Phase Shift Keying)」

ASK、FSK、PSKの違いは「何を変化させるか」

 ASKは、信号の振幅を変化させます。最も単純なASKでは、搬送波が断続されているように見えるため、On Off Keying(OOK)とも呼ばれます。いわゆるモールス符号による通信もこの方式です。この方式では、振幅が変化してしまうため、フェージングなどに対して弱くなります。フェージングとは、周期的に電波の強さが変化する現象です。これは、マルチパスが原因で起こります。マルチパスが発生したとき、その経路のどこかの反射や減衰が変動すると、受信地点での位相が違ってきます。たとえば、反射する物体が風などで揺れることで反射方向が僅かに変わったり、あるいは車が通ることで新たなマルチパスが発生するなどします。そうなると、直接波と反射波(マルチパス)を合成した受信信号の強度が時間とともに変化します。これがフェージングです。

 また、振幅の変化は、送信電力の変化でもあるので、消費電力的にもあまり有利な方法ではありません。

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