FMCへの布石、「無線LAN内蔵ケータイ」の現状は…… 神尾寿の時事日想:

» 2005年10月06日 17時14分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 10月4日、KDDIがCEATEC JAPAN 2005の展示ブースで、無線LANを組み込んだ携帯電話を使った企業向け内線ソリューションを紹介した(10月4日の記事参照)。この狙いはNTTドコモの「PASSAGE DUPLE」と同じく、まずは企業向けから、携帯電話と無線LAN向けのサービス統合を目指すものだ(2月7日の記事参照)

 これらの動きは、おそらく2006年から2007年の争点になるであろうFMC(Fixed Mobile Convergence)の布石だ。FMCでは固定網と携帯電話網を統合するが、その際、固定網と携帯電話を結ぶ技術の最右翼がIEEE 802.11系の無線LANである。

 しかし、携帯電話に無線LANやVoIP機能を積めば、固定網との融合がすんなりいくかというと、話はそう簡単ではない。すでにPASSAGE DUPLEが投入されていることから、ハードウェア/ソフトウェアの実装は技術的には可能だが、ソリューションの構築・運用面では難しさも多く残るからだ。

 例えば、先述のPASSAGE DUPLEでは、導入はしたものの安定運用に時間がかかるケースもあるようだ(9月8日の記事参照)。PHSを使ったPASSAGEからPASSAGE DUPLEに切り替えたある企業では、「導入してから半年以上も経つのに安定せず、トラブルばかり起こっている。未だにドコモの担当者が(社内のシステム部門に)ほぼ常駐している」(PASSAGE DUPLE導入企業の社員)という。その企業の事業分野はITではないだけに、無線LANと携帯電話を統合する技術的な難しさを一般社員に理解してもらうのは難しい。その結果、「不安定、音質が悪い、使い勝手が悪い。なぜ今まで(のPASSAGE)と同じように使えないのだ」と、社員の不平・不満が集まってしまっているという。無線LAN内蔵ケータイの先行事例は、ドコモにしても苦しい手探りが続いているようだ。

基本部分の完成度が重要

 もちろん、PASSAGE DUPLEなど無線LAN内蔵携帯電話には大きな可能性がある。その第一がコスト削減効果で、次にコミュニケーションの高度化が挙げられる。

 しかし、実際に利用するエンドユーザーが、それらのメリットを深く理解し、共感してくれるかというと話は別だ。筆者はPASSAGE DUPLEの先行導入事例や、全国の法人営業の現場を取材したが、エンドユーザーが求めているのは「安定していて、シンプルに使える電話」と至極まっとうだ。逆に、不安定なものや操作が複雑なもの、動作が遅いものは極端に嫌がられる。

 今後、ドコモやKDDIが注力する無線LAN内蔵携帯電話のソリューションが広く普及するには、まずは「電話としての信頼性・使い勝手」という基本部分の完成度を上げる必要がある。使い勝手の向上も重要だ。エンドユーザーのヒアリングをした限り、UIとレスポンスの両方で課題は多いと感じる。

 携帯電話と固定系サービスが融合するのは時代の趨勢であり、それが「いつ始まるか」の鍵はエンドユーザー側の利用環境の完成度が握っている。各キャリアの努力に期待したい。

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