「日本の携帯電話業界は世界で最も進んでいる」――NTTドコモ夏野剛氏神尾寿の時事日想・特別編: (2/3 ページ)

» 2006年01月16日 12時56分 公開
[神尾寿,ITmedia]

既存のコミュニケーションサービスも見直し。利用率増加を狙う

 また既存のサービスも、操作性改善や機能追加で利用率向上に腐心している。その代表が902iシリーズから変更された「TV電話」機能だ。

 先代までのFOMAユーザーならば経験があるかもしれないが、これまでTV電話の着信は「TV電話ボタン」で受けなければならなかった。しかし、902iでは一般的な「通話ボタン」でTV電話着信ができるようになり、ハンズフリーモードが自動的にオンになる。

 「(TV電話については)本来、902iで操作改善したくらいのことが本来できてなければならなかったんですよ。これまでは標準でハンズフリーモードにすらならなかった。ただ、(使いにくさがあった)それでも10%程度のユニークユーザー利用率があって、FOMAユーザーが増えても利用率は減らない。だったら、使いやすくすれば利用率はもっと上がる。1年半かけて操作性を改善しました」(夏野氏)

 他にも、デコメールの絵文字がインライン表示できるようになるなど、902iではコミュニケーションサービスの細かな機能追加や改善が行われている。新機能であるプッシュトークも、「使いやすさを第一に考えた」(夏野氏)結果として、専用ボタンやサービスメニューが新設された。このように902iはコミュニケーションサービスにも力が入っている。

 「パケット料金定額制以降、ふつうのデータサービスでは(収入増の)アッパーリミットが決まっている。我々としては、サービスのバラエティを増やさなければ収入が増えません。その中でもコミュニケーション系は重視しています。今後もさらに充実していきます」(夏野氏)

iモードアライアンスは日本メーカーにとってチャンス

 ドコモの902iはサービスと端末機能が一体化したモデルとして、世界的に見ても群を抜いて高機能で、デザインとパッケージングのバランスも優れていると言える。しかし、その一方で、902iを製造する日本メーカーは、グローバル市場での競争力ではノキアやモトローラ、サムソンに劣るのが実情だ。

 日本の端末メーカーがグローバル市場で弱い理由の1つに、通信キャリアの開発体制と販売網に依存しすぎる体質がある。海外メーカーが開発・生産・サービスなど、あらゆる場面における汎用化と、それをベースにするプラットフォーム戦略をとる中で、「iモード端末」は日本メーカーの足かせにはならないのだろうか。

 「最近よく言われる『汎用化』には、ソフトウェアや基盤技術をプラットフォーム化する『生産の汎用化』、(同一モデルの)売り先を増やす『販売の汎用化』、そしてお客様が購入後にカスタマイズする『ソフトウェアの汎用化』の3つがあります。

 汎用化で話題になるスマートフォンは、ソフトウェアの汎用化なのだけれど、ヨーロッパに行ってもSymbianに(S60で)アプリケーションを追加しているユーザーは少数派ですよ。スマートフォンの市場はあるとは思いますが、今はそれほど大きくもないと考えています。

 我々(キャリアとメーカー)にとって重要なのは、生産の汎用化。901iから取り組んでいるLinuxとSymbianが熟成した。Symbianだって日本市場向けにきちんとカスタマイズされたものです。902iはその点で、生産の汎用化はかなりできたと考えています」(夏野氏)

 一方、販売面でも、今では「ドコモ向け端末は、ドコモにしか売れない独自仕様」という状況が変わってきているという。

 「販売面の汎用化で足がかりとなるのが、(ドコモが海外戦略として取り組む)iモードアライアンスの存在です。現在、iモードアライアンスの潜在ユーザー数は2億人を超えています。ドコモで5千万人、ロシア(Mobile TeleSystems)で5千万人、スペイン(Telefonica Moviles Espana)で2千万人、イギリス(O2)で2千万人、といった具合に潜在市場がある。この中で実際にiモードを使うのは、海外は約600万人程度、我々(ドコモ)は4500万人あるわけです。これらiモードアライアンスに参加する海外キャリアで今後3Gが広がれば、当然ながら(日本向けの)iモード端末の共用という話になってきます。今後は『ドコモ向けに開発した端末は、世界で売れる』という状況にしていきます」(夏野氏)

 ドコモとしては、iモードアライアンスという土壌を用意することで、ハイエンド向けを中心にグローバル市場で共用モデルを開発・販売しやすくする。これは確かに日本メーカーにとって、海外進出の足がかりになるだろう。

 「iモードアライアンスで(端末メーカーにとって有利な)環境は作っていきます。これはチャンスなので、あとは日本メーカーさんにもっと頑張ってほしい。技術的には一日の長がありますし、その力はあるんだから。例えばですね、2000年頃には携帯電話業界で韓国メーカーの存在感は薄かったわけですよ。それが今や世界でナンバー2や3になってきている。日本メーカーが海外市場で成功できない理由なんてない」(夏野氏)

「キッズケータイ」はGPS搭載義務化への布石

 昨年末、発表されたFOMAラインアップの中で、もうひとつ筆者が注目しているのがSA800i「キッズケータイ」だ(2005年11月24日の記事参照)。同機はよく練り込まれたセキュリティサービスと、GPSを利用した位置追跡機能に加えて、子どもに安心して使わせられる専用iモードコンテンツが用意されているのが特徴であった。特にGPS機能においては、本体機能とサービスに一体的に組み込まれており、SA800iはキッズケータイおよびGPSケータイのお手本と呼べるほど、よく練り込まれた製品になっている(2005年11月25日の記事参照)

 「我々が独自調査したところ、現在、小学校高学年で携帯電話を持っている人が40〜50%います。低学年でも10%。子どもに携帯電話が必要かというのは議論が分かれる部分ですが(2005年7月28日の記事参照)、親御さんの判断で『持たせる』という人が存在する現実を考えれば、そのセグメントに対して安心して使っていただけるものを提供したい。

 また、もう1つの要素として『GPS機能をどう使うか』があります。携帯電話業界でGPSは長年のテーマだったわけですが、他社の取り組みを見ていますと、(GPS機能は)あんなに使われていないサービスはめずらしい。いろいろな試みはされていますが、母数に対して利用率が低い。こういったGPSの現状がある一方で、社会的な要請から(2007年から)緊急通報目的としてGPS機能が携帯電話に組み込まれます。今後、我々も携帯電話のGPSに向き合っていかなければならない」(夏野氏)

 ドコモにとってキッズケータイは、主流の902iや702iシリーズで対応しきれない特定セグメントのニーズをカバーするモデルというだけでなく、今後のGPSサービスへの布石という一面がある。

 「GPS機能に必要なのは、分かりやすいサービスです。キッズケータイ(というコンセプト)はGPSの使い方として非常に分かりやすい。GPSをキッズ向けとして投入し、ドコモの位置情報サービスである『imadoco?』(イマドコサーチ)を訴求していきます(2005年11月24日の記事参照)。キッズケータイは(子どもの安全とGPS搭載義務化の)2つの社会的要請から生まれましたが、その中でGPSをシンボリックに打ち出すことで、GPSというプラットフォームが実際に使われるものだということを証明していきたい。当然ながら、法人向け市場も視野に入っています」(夏野氏)

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