IEEE 802.20の、モバイルWiMAXに対する優位性とは――クアルコムジャパンInterview(2/2 ページ)

» 2006年03月16日 21時30分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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時間の課題にどう対抗するか

 802.20は次世代ワイヤレスブロードバンド技術として、高い周波数利用効率が追求されている一方で、3GのCDMA技術で培った利便性やサービス開発を容易にする要素技術が内包されている。クアルコム側がモバイルWiMAXに疑問を呈し、802.20を推す根拠は合理性のあるものと言えるだろう。

 しかし、802.20には大きな課題がある。技術的・経済的な合理性にこだわった結果、技術策定に時間がかかり、次世代ワイヤレスブロードバンドの商用化タイミングに対して"出遅れた"ことだ。以前本連載で掲載したインタビュー「KDDIにとってのモバイルWiMAX」でも、802.20の優位性を認める一方で、「2007年から2008年のワイヤレスブロードバンドサービスの商用化を目指す」には802.20の策定が"遅すぎた"と指摘されている。ライバルとの競争が激しくなる中で、サービス投入のタイミングが遅れることをキャリアが嫌忌するのは当然だ。

 クアルコムでは、モバイルWiMAXに比べて出遅れている点についてどう考えるのか。さらに踏み込んで言えば、「802.20で、2007年に商用化できるのか」というのが大きなポイントになる。

 この点について山田氏は「そもそも2007年に商用化することにどれだけの意味があるのか」と主張する。

 「我々としては、2007年という商用化タイミングにこだわる事の方に疑問を持っています。なぜなら、HSDPAやEV-DO Rev.Aなど3Gの最新技術がようやく投入されて、2007年はまだこれらが広がる課程にあるはずです。このほぼ同時期に、新たな周波数を使ってまで(HSDPAやEV-DO Rev.Aに比べて)性能優位性がないものを重ねて導入しなければならないのか。そこに根本的な疑問があります。

 ただ、802.20で2007年の商用化ができるのかと、是か非かで問われれば『2007年に商用化というのは、ちょっと難しいかな』という答えになります。我々としては、2006年度中にフィールドトライアルを終えて、その後にチップセットの製造に入りたいと考えています。そこから基地局や端末を作ることを考えると、2007年というのは少しアグレッシブなスケジュールになる」(山田氏)

 802.20を使ったワイヤレスブロードバンドの商用化スケジュールを考えた場合、2007年というタイミングは難しいが、「その翌年の2008年であれば(商用化できるのは)間違いない」(山田氏)。

 「現在のワイヤレスブロードバンドを取り巻く状況を見ていると、周波数の獲得や(他社との)競争上のイベント作りではないかと思える部分があります。もちろん、それらはキャリアにとって重要ではありますが、将来的なユーザーのメリットに繋がるものか、という部分で疑問があります。

 周波数は限られたものですから、(新たな周波数の利用では)現行技術より優れたものを使わないと、サービスをすること自体にどういった意義があるのか、という事になる。またキャリアにとっても、後から登場する技術で性能差が倍以上あるなら、必ずしも『先出し』が有利とは言い切れなくなるのではないでしょうか」(山田氏)

将来的には1チップを目指す

 クアルコムでは以前から、コアチップセットに様々な機能を内包していく「1チップソリューション」戦略をとっている。これには端末メーカーの開発負担を減らし、新技術が平準化する課程でコストパフォーマンスが向上するというメリットがある。802.20の将来的な展開においても、クアルコムは1チップソリューション化を念頭においているという。

 「ワイヤレスブロードバンドのサービスでは、携帯電話キャリアが3Gのインフラと重畳させて、新たな通信インフラを構築する仕組みが考えられている。すなわち、ワイヤレスブロードバンドでは3Gと新方式のデュアルモードが前提になるのです。この時、端末コストの問題をしっかり考えておかないと、キャリアやユーザーが大きなコスト負担をしなければならなくなります。

 802.20では、3Gとのデュアルモードは重要な開発案件と位置づけています。まず上位レイヤのプロトコルはできるだけ3Gにあわせていますし、将来的には3Gのチップセットに内蔵する方針で開発しています。この取り組みは確かに(モバイルWiMAXに比べて)時間はかかりますけれども、結果的に端末コストの低廉化に繋がります」(山田氏)

 WiMAXをベースに持つモバイルWiMAXは、あくまで3Gとは別の過程をたどる技術であり、将来的には「3Gとの連携」が考えられている。一方で、802.20は3Gとのデュアルモードが当初からのコンセプトにあり、将来的には1チップとして「3Gとの融合」を目指す。ワイヤレスブロードバンドは“携帯電話以外”の領域で期待される事が多いが、802.20は新分野だけでなく、携帯電話の中に内蔵されることを前提にしている。

 また、この1チップ化の方針は、インテルが推進することから「モバイルWiMAXが強い」とされるノートPCの領域でも、802.20の優位性になるという。

 「ワイヤレスブロードバンドはエリアの観点から、3Gと組み合わせてサービスを成すという形になります。となると、今後はノートPCに3Gのチップが内蔵されるという流れになりますが、その3Gチップは(モバイルWiMAXを推す)インテル製ではない。インテルがモバイルWiMAXを推すことが、(3Gまで組み合わせて広域性を確保しなければならない)ワイヤレスブロードバンド分野で有利という事にはならないでしょう」(山田氏)

 クアルコムの計画では、802.20は将来的に3Gチップに内蔵される。つまり、ノートPC市場には「3Gチップのニーズ」に統合された形で802.20を普及させていく戦略、といえる。3Gと組み合わせなければワイヤレスブロードバンドがサービスとして成立しない以上、たとえノートPC市場であってもインテルが有利になりきれないとする山田氏の指摘には、一定の説得力がある。

2.5GHzの有効活用をしっかりと考えるべき

 ワイヤレスブロードバンド技術としてモバイルWiMAXが脚光を浴びて、そこにクアルコムが疑問の声を投げかけたことで、「モバイルWiMAX Vs 802.20」という対立軸での見方がされている。しかし、これはクアルコムにとって本意ではないという。

 「そもそも(モバイルWiMAXと802.20は)成り立ちもコンセプトも異なると考えています。我々としては、新たに割り当てられる2.5GHzの有効活用を、技術の本質や将来性をもってしっかりと議論していただきたい。モバイルWiMAXは選択肢のひとつではありますが、それだけであの70MHz幅を使い切るというのでは、あまりにももったいないのではないでしょうか」(山田氏)

 モバイルWiMAXと802.20のどちらを選択するか。その決定権はキャリアにあるが、その影響は業界全体に波及し、最終的にはエンドユーザーに及ぶ。周波数が、キャリアの資産である前に国民の財産である以上、次世代技術の選択が安易であってはならないと、筆者も思う。特にワイヤレスブロードバンドは今後、世界的にも重要になる分野である。キャリアはもちろん、日本の携帯電話業界全体で、次世代の戦略を考えていく必要がありそうだ。

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