「携帯向け放送」として、Qualcommが推進する「MediaFLO」(3月2日の記事参照)はワンセグのライバルだと位置づけられることも多い。しかし、クアルコムジャパン会長の松本徹三氏はこれを否定する。
同社は5月26日、携帯向け放送サービスに対応した次世代シングルチップ「UBM」(ユニバーサル・ブロードキャスト・モデム)を発表した。注目は、MediaFLOはもちろんDVB-Hとワンセグに対応していることだ。つまり、この1枚のチップを搭載することでワンセグとMediaFLOの両方を受信する携帯電話を開発できる。
既に米Verizon WirelessがMediaFLO採用を発表しており(2005年12月2日の記事参照)、この携帯には第1世代のMediaFLOチップセットが搭載されている。しかし今回発表されたUBMは、従来のチップと比べていくつか改善点があるという。
1つは、対応周波数が470〜862MHzと大幅に広くなったこと。米国では716〜722MHz帯の6MHz幅がMediaFLO向けに割り当てられているが、米国以外ではこの帯域が使えるとは限らない。仮に800MHz帯をMediaFLO向けに利用する国があったとしても、UBMはその状況に対応できるわけだ。
利用する周波数幅も、6MHz幅に固定するのではなく「5/6/7/8MHz幅」の中から選べるようになった。与えられた周波数帯に応じて、柔軟に対応できる。「MFN」(マルチフリークエンシーネットワーク)にも対応しており、「東京ではあるチャンネルの周波数を使い、茨城県に移動したら別の周波数を使う、という切替ができる」(松本氏)。
また今回から、RFモジュールをワンチップ化したのも特徴だ。QualcommのMSMチップと組み合わせるだけで、MediaFLOの受信を行える。そして最大の特徴は、前述のとおりMediaFLOだけでなく別の携帯向け放送方式、ワンセグとDVB-Hに対応したことだ。
松本氏は、声を大にして「ワンセグはそりゃあ、非常にいいものだ」と話す。地上波の番組をサイマル放送で視聴できるわけだから、「ある意味なくてはならない」。世間ではQualcommがワンセグに対抗するのではないか……という意見が語られることもあるが、これは「とんでもない話」(同氏)だという。
「ワンセグは、最も力強い仲間だと考えている。ワンセグがなければ、我々は『携帯でもテレビが見られるんです』ということの説明から始めなければならず、大変だった」。従来の携帯テレビは6チャンネルとか7チャンネルしか見られなかったところが、MediaFLOなら多チャンネルになる――というアピールをするようだ。
「MediaFLOも入れて、3つも石(チップ)があると(端末内部が)かさばる。UBMを使えばコスト的にも、かさばりかたも(容積的にも)全然開発が楽だ」。ワンセグとセットにしてMediaFLOを市場に普及させていくという立場からすれば、「ワンセグは不滅だと思う。……むしろ、不滅であってほしい」(同)というコメントも、納得できるかもしれない。
松本氏は現状、MediaFLO向けの周波数を確保できていないと認める。アナログテレビが停波する2011年が周波数獲得の「ねらい目」だが、そこまで待つ気はさらさらないようだ。「2008年には、なんとかして開始したい。そこで2011年までの期間は、『周波数をお借りできないでしょうか?』と言いたい」
松本氏の考えはこうだ。現在周波数に空きがないとはいえ、地域単位で見れば空いている帯域はある。「北海道に行くと、がら空きの帯域があったりする。東京エリアは、東は何チャンネルを使用し西は何チャンネルを使用し……ときめ細かくジグソーパズルのように周波数をもらっていけば、MediaFLO開始を2008年に前倒しすることも夢ではない」
この場合、MediaFLO用帯域が別途確定すれば、そこにごっそりと周波数を移し変えるという手間が発生になる。そんなことが可能なのか。
「通信サービスの場合は、周波数変更とともに端末を回収する必要がある。周波数がほかのサービスに割り当てられた後に、旧サービスのユーザーが電波を発信したら、それで新サービスの周波数と混信してしまうからだ。だが、MediaFLOは放送サービスであり、端末は放送を『受けるだけ』だから(=上りの通信を行わないから)、悪さはしない」。端末回収の手間がかからないため、可能だとの見通しだ。
ちなみにこれは、Qualcommサイドの人間である松本氏の意見であり、KDDIとクアルコムジャパンが合弁で設立したメディアフロージャパン企画の意見ではない、とも付け加えた。
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