同世代で多数の端末ラインアップを作り、面でシェアを獲得する──NECInterview(2/2 ページ)

» 2006年07月18日 00時00分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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プラットフォーム化が実現した多品種少量の開発体制

 NECはこれまで“主流市場のど真ん中”を幅広く獲得するモデルの投入を得意としてきた。しかし3G市場の成熟は、ユーザーとキャリアのニーズを多様化させており、かつてのように最大公約数的なマス市場向け端末の成立を難しくしている。

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 「今後は市場規模の大きいところだけでなく、小さいところにも対応できる端末ラインアップを作らなければならなくなってきています」と田村氏は言う。「これは市場投入のサイクルを早めるのではなく、同世代で数多くの端末ラインアップを作り、面でNECのシェアを獲得する戦略です。そのためには(これまでと比べて)小さいセグメントでも獲りに行きます」

 この多品種・少量のモデル投入を可能にするのが、プラットフォームの共通化だ。NECでは以前からLinux OSベースの3Gプラットフォームを開発し、これを採用している。その効果は如実に表れているという。

 「Linuxの採用にあたり、最初のモデルである『N900iL』や『N901iC』を開発する際には、開発リソースもコストも相当かかって大変な思いをしました。しかし、今では開発体制も整い、ソフトウェア部分を中心に年率40%ほどのコスト削減につながっています」(田村氏)

 また、901iシリーズの頃に問題になった、PDCと比べて処理速度が遅い点、通称「もっさり」の問題も、902i、902iSと世代を経るにつれほぼ解消。汎用OSを使ったプラットフォーム開発・生産の仕組みは、多様化する市場ニーズへの対応を可能にし、コスト削減も実現した。市場の進歩を背負うハイエンドモデルだけでなく、N702iDのようなデザイン重視の売れ筋モデルが作れたのも、プラットフォーム化が進んだ結果と言えそうだ。

ドコモ、ボーダフォン以外への端末供給はあるか

 周知のとおり、今年は番号ポータビリティ(MNP)制度の年である。NECはこれまでドコモ向け端末メーカーの最大手として市場に君臨してきたが、MNPの影響がどの程度あると予想しているのだろうか。

 田村氏は「重要なのはMNPでユーザーがどれだけ動く(キャリアを変更する)か、という点にあります」と話す。「すべてのキャリアに端末を供給しているメーカーは、武器の商人じゃないですけれど、どこのキャリアが勝ってもいいという考えですよね。全キャリアに一定比率でシェアを持っていれば、ユーザーがどういう動き方をしても市場の総需要が伸びた分だけ自社の売り上げも上がるという戦略です。しかし、これは『MNP利用が多い』ことを前提にしています。現在のユーザーの反応や市場調査の結果を見ますと、MNPでそれほどユーザーはキャリアの変更をしないんじゃないかと感じています」(田村氏)

 3強メーカーの1つであるシャープ(2005年12月21日の記事参照)だけでなく、NECと長年のライバル関係にあったパナソニック モバイルも、3キャリアすべてに端末を供給する方針を打ち出している(6月1日の記事参照)。だが、NECは開発リソースの有効活用という点から、慎重な姿勢を崩さない。

 「(3キャリア向け供給体制の)必要性は検討していますけれど、『やろう』と言って実現できるくらいなら前々からやっています。限られた開発リソースをどこに注力すべきかを考えると、既存のところ(ドコモ向け端末市場)でシェアを落とさないように努力しなければならないと考えています。最悪のシナリオは、八方美人的にあれもこれもと(複数キャリア向けの)供給を始めて、実際に今買っていただいているお客様のところが手薄になることです。それだけは避けなければならない」(田村氏)

 NECの強固な顧客基盤といえば、言うまでもなくドコモの端末市場である。ここはNECを長年支持するエンドユーザーも多いことから、同社にとって重要なマーケットになる。さらにNECは、今秋ソフトバンクに変わるボーダフォン向けにも端末を供給している。こちらはシャープと東芝が端末シェアの過半を占めるマーケットだが、強豪や新規参入メーカーがひしめきあうドコモ向け端末市場に比べると、現時点での競合は少ない。

 「ソフトバンクもNECにとって既存のお客様ですから重要だと考えています。また、(NECのシェアが成長する)可能性もあると考えています。ドコモ向け端末の市場で落としたシェアを回復させて、ソフトバンク向け端末市場のシェアを伸ばすという戦略が、NECにとってもやりやすい」(田村氏)

キーボード型よりも「小型化」が重要

 昨年後半から注目されている端末分野のひとつに、キーボード型スマートフォンがある。この分野は北米市場のブームから波紋が広がっており、ノキアの「Eseries」やRIMの「BlackBerry」が有名だ。日本市場でも、ノキアがEシリーズ投入を表明しているほか(6月8日の記事参照)、ドコモがRIMのBlackBerry(6月8日の記事参照)やHigh Tech Computerの「hTc Z」(7月12日の記事参照)の採用を発表している。

 しかし、田村氏は日本市場でのキーボード型端末の将来性について、「あまり受け入れられないのではないか」と懐疑的な予測をする。

 「今では小型化競争が一段落したように見えるのですけれど、実際は小型化が薄型化に名前を変えて続いています。容積を減らす競争も激しくなっている。小型化は日本市場において、底流のトレンドなんですよ。多機能化・高性能化しても小型化を求められる日本において、キーボードを搭載するというのは必ず大型化につながる。これが受け入れられるかは疑問です」(田村氏)

 さらにキーボード型端末のセールスポイントである“QWERTYキーボード”の必要性も、日本市場においてはあまり高くないのではないかと指摘する。

 「今のスマートフォンのキーボードは日本語表記のない英字キーボードですよね。一般ユーザーには受け入れられないと思います。個人的な見解ですが、小型化や軽量化のニーズを跳ね返すほどの力はキーボードにはない」(田村氏)

今後、重要なのは「セキュリティ」

 MNPの先にある2007年以降を見据えると、HSDPAなど通信技術の進歩のほかにも、さまざまなサービスや技術の選択肢がある。この中でNECが重視するのがセキュリティ分野だ。

 「安心・安全というのが社会でこれだけ注目されていて、デジタル情報の管理にも高い意識が求められるようになってきました。また携帯電話にはおサイフケータイを実現するFeliCa機能が載るなど、より生活に密着したものになってきている。このような変化を考えると、セキュリティ技術の重要性は増してくると思います」(田村氏)

 NECでは「N902iS」に顔認証機能を搭載するなど、バイオ認証を筆頭にセキュリティ技術の開発と搭載に力を入れている。だが、今後を睨むと改善しなければならないポイントも多いという。

 「ポイントはセキュリティ機能を“簡単に使える”ことだと考えています。ロックや解除を意識してやらないといけないというのは、どうしても使いにくい。風のように、空気のように(セキュリティ機能が実現)できることが求められてくる」(田村氏)

 NECはiモード時代初期の爆発的な成功の印象があまりにも強い。しかし、もともと長けていた通信分野の技術力と開発力を軸に、時代の潮流を見据えたプラットフォーム開発体制の構築、デザイン分野への注力などを行ってきた。そしてMNPを迎えるにあたっても、既存顧客重視の姿勢を貫く。堅実だが着実に変わるNECの姿勢は、日本市場の今後を考える上で重要なものと言えるだろう。

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