3つ目として挙げたのが“ビジネスも2.0時代へ”という変化だ。これまで「垂直統合」「水平分業」と言われていた動きを、同時に組み合わせて展開していこうという方向性である。
例として取り上げたのが、トーマス・フリードマンのベストセラー“The World is flat(邦題「フラット化する世界」)”。この本の中に登場する事例として、米国の宅配便業者であるUPSの例を挙げている。
UPSは、デルコンピュータのPCを顧客の家へ配達する仕事の他、故障したPCを顧客の家から回収し、デルコンピュータへ運び、再度顧客の家へ配達する仕事も請け負っていた。デルコンピュータから「コストダウンをしたい」と相談されたUPSが取った手は、“PCの修理スタッフを雇い、デルコンピュータに戻さずに自前で修理して顧客に戻す”というものだった。本来PCメーカーではないUPSがPCの修理サービスを始めたわけだが、このようにビジネスを分業し、アウトソース化が進むことで、展開が広がるいい例だ。
また、技術の進歩に従い、ビジネスの集約化・垂直統合化が進む例もある。再び伊藤氏が“The World is flat”から取り上げたのが、広告制作の例だった。これまで企画は自分で行い、撮影や編集作業は他の専門家と共同でやっていたものが、デジカメの発達により撮影を自分で済ませ、自分のPCにソフトを入れて制作まで一人で行うようになる、というエピソードだ。
これまで通信業界は垂直統合モデルで進んできたが、これからは垂直化と水平化を両方組み合わせた「垂・平モデル」が可能ではないか、これがビジネスにおける2.0化である――と伊藤氏は話す。
KDDIにとっての垂・平モデルはいくつかあるが、そのうちの1つが“オープンモデルとクローズドモデルの併用”だという。KDDIはGoogleと提携し、EZwebのトップメニューでGoogleの検索エンジンを使ってPC用サイトを検索・閲覧できるというサービスを提供しているが(5月18日の記事参照)、これは“情報閲覧は無料化してユーザーニーズに応えよう”というオープンモデルの方針によるものだ。その一方で、着うたフルなどのダウンロードコンテンツを強化し、クローズドモデルも併用していきたいとする。
オープンモデルとクローズドモデルの併用で目指すのは、“コンテンツの売上拡大”“データARPUの引き上げ”“広告収入拡大”の3つで、すでにうまく回り始めているという。「Googleを入れた結果、(EZwebへの)アクセスは2倍になった。しかも公式サイトへのアクセスも増えた」(伊藤氏)。
最後に伊藤氏が挙げたポイントは、上記の“2.0化”を支えるビジネスプラットフォームの連携だ。
テレビ、PC、携帯などさまざまなサービスがある中で、ユーザーは複数のサービスを横断して利用するようになってきている。こうした中で重要になるのが“簡単で確実な個人認証”。ユーザー本人しか使わない携帯は、この用途に適しているのではないか、と提案する。
例えば、家のなかに設置した家電をつなぐホームネットワークを、外からリモートで操作するといったシーンで、携帯を本人認証用に使うなどの用途だ。また、ワンセグや3セグ携帯では、テレビやラジオで紹介された商品を、携帯でそのまま買えるようにする、という例も紹介した。「携帯で本人認証してそのまま買えれば便利だ。これまで顕在化していなかった商流が発掘できるのではないか」(伊藤氏)
また、携帯で個人認証するメリットが大きそうなのが、ネットバンキングなどのサービスだ。現在はIDとパスワードを打ち込んでログインしてから利用するものが一般的だが、IDとパスワードを携帯で一元管理できるようになれば使い勝手は大幅に向上する。「調査によれば、利用しているログインサービスは増えているが、全て同じIDやパスワードを使っている人が約9割。全て違うID、パスワードを設定している人は約1割しかいあに。そしてIDやパスワードを思い出せないときに取る行動は“利用を諦める”が約1割という数字がある。しかし実際には、利用を諦めてしまう人はもっといるのではないか」(伊藤氏)
個人認証の役割を携帯で果たせるようになれば、こういった問題は解決する。伊藤氏は「(携帯の)個人への紐付けによるサービス拡充が今後の鍵」として、講演を締めくくった。
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