10月31日、日本通信が3GとPHSをシームレスに切り替えながら使用できる定額データ通信サービス「Doccica(ドッチーカ)」シリーズを発表した。詳しくはニュース記事に譲るが(10月31日の記事参照)、これは3G接続用とPHS接続用の2枚のデータ通信カードと接続用ツール、データ通信料とインターネット接続料がセットになったもので、3GとPHSのインフラを切り替えながら使えるのがポイントだ。日本通信はすでにウィルコムのPHSインフラを借りてMVNOを実現しているが(2005年4月の記事参照)、今後、携帯電話キャリアの3Gインフラを使ったMVNOも目指すという。
仕事柄という事もあるが、筆者もノートPCを持ち歩く「PCモバイラー」の1人だ。そして常に、PC向けのモバイル通信サービスが、携帯電話のそれと比べて疎外されていると感じている。
携帯電話向けの3Gインフラは、最大通信速度が「Mbpsクラス」のEV-DOやHSDPAが普及期に入り、高速通信・定額料金が定着しつつある。だが、これら3G高速化技術の恩恵にあずかれるのは、あくまで“携帯電話だけ”だ。ノートPC向けのデータ通信サービスで定額制を実現しているのは、ウィルコムのみという状況だ。
ノートPC向けだけではない。カーナビやPDAなど携帯電話以外のノンPC向けにも、携帯電話キャリアは3Gの定額制サービスを提供しようという姿勢が皆無だ。
例えばテレマティクス分野では、本田技研工業の「インターナビ」向けにウィルコムが月額1050円のインターナビ専用の定額料金プランを用意している(2005年11月の記事参照)。一方、携帯電話キャリアでカーナビ/テレマティクス向けに定額料金プランを用意している会社は1社もない。トヨタの「G-BOOK ALPHA」はユーザー向けの利用料金は定額制だが、あくまでKDDIの通信モジュール利用料は従量制課金である(2005年4月の記事参照)。トヨタがユーザーの利用量においてリスクを負っているのだ。
誤解を恐れずに言えば、携帯電話キャリアにとって「携帯電話以外」に向けた通信サービスは優先度が著しく低く、“蚊帳の外”といった状態である。携帯電話の世界は、定額制を前提にさまざまなサービスが発展している。しかし、携帯電話以外は取り残されたままだ。
キャリアは携帯電話以外に、なぜ高速通信・定額制が提供できないのか。この問いを投げかけて、キャリア関係者から必ず返ってくる答えが、「携帯電話市場に比べて(ノートPC向けやテレマティクス向けの)市場規模が小さく、きめ細かなサービス開発が難しい」というものだ。これは本音だろう。
携帯電話市場の大きさに比べれば、ノートPC向けやカーナビ・テレマティクス向けの通信サービス市場は小さい。トラフィックのコントロールと料金のバランスを取ることは、すでに技術的には実現可能になっている。しかし、携帯電話キャリアがそれぞれの小さな市場にあわせてきめ細かくサービスを開発し、地道に“市場を育てる”には、本業である携帯電話ビジネスがあまりに巨大すぎるのだ。また、携帯電話ビジネスとの共食いを避けようとする力も働く。例えば、携帯電話キャリアが仮にノートPCやPDA向けに3Gの定額制サービスを提供したとしても、Skypeや各種音楽・動画配信サービスの利用を制限するだろう。
携帯電話キャリアは、携帯電話ビジネスの大きさがむしろ足かせになり、“携帯電話以外”のデータ通信市場を牽引できない。では、誰がノートPCやクルマ、その他多くのモバイル機器に対するデータ通信市場を育てるのか。
そこで重要な役割を担っているのは、PHSというユニークなインフラを持ち、「マイクロマーケットの連鎖」(ウィルコム社長の喜久川政樹氏)という手法で着実に成長するウィルコムだろう(6月26日の記事参照)。しかし、“携帯電話以外”のモバイル通信のニーズは、個々の市場は小さく特化されているが数多く存在する。その中で、日本通信のようなMVNOキャリアの存在意義は十分にあると思う。また近い将来、既存キャリアの中からスピンアウトしたMVNOキャリアが、これら携帯電話以外の小規模データ通信市場に参入する可能性もゼロではない。
携帯電話以外のデータ通信市場は、その市場規模こそ携帯電話に及ばないが、ユーザーのニーズは強い。ウィルコム、そして日本通信のようなMVNOキャリアなど、フットワークの軽いプレーヤーが多く参入し、この分野が成長していくことに期待したい。
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