既存キャリアとの違いを打ち出し、新たなビジネスをする──アイピーモバイルの戦略Interview(2/2 ページ)

» 2006年12月12日 11時50分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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「MBG」の狙いと、将来の端末戦略

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 端末戦略については、アイピーモバイルはよい意味で自らの限界を知っている。既存の携帯電話キャリアのように独自仕様の端末を数多く開発するのではなく、いくつかの汎用的なソリューションを数を絞って投入する考えだ。その顕著な例が、ユーザーが持つ無線LAN端末と同社のTD-CDMAサービスを仲立ちする「モバイル・ブロードバンド・ゲートウェイ」(MBG)というコンセプトだろう。

 「すでに多くのノートPCやポータブル機器がWi-Fi(無線LAN)に対応しています。我々がゼロからTD-CDMA端末を開発するよりも、これらWi-Fi対応機器にアイピーモバイルの高速かつ定額のモバイル通信環境を提供できる仕組みを用意した方がいい。そこから誕生したのが、『MBG』です」(小林氏)

 MBGについては先のリポート記事でも紹介しているが(11月21日の記事参照)、これは持ち歩けるTD-CDMA対応の無線LANアクセスポイントである。Wi-Fi経由でアイピーモバイルのサービスが利用できるので、接続できる機器はノートPC、PDA、ポータブルゲーム機、ソニーの「mylo」のようなIM/Skype端末、さらにはWi-Fi対応のスマートフォンなど種別を選ばない。実際、取材時のデモンストレーションでは、ノートPCやプレイステーションポータブル(PSP)、ニンテンドーDS、Skypeフォンなどを同時に使い、動画配信やビデオチャット、Skype電話、ロケーションフリーなどをさらりと実現していた。

 「MBGはコロンブスの卵的な発想ですが、我々の戦略商品として投入していきたい。また、MBGには何種類ものモバイル端末を開発・製品化せずに、ユーザーの手持ちの機器を使ってもらう(ことで同社のユーザーにできる)という狙いもあります。後発組としては、端末開発は資金的・時間的に負担が大きいですから」(小林氏)

 さらに「複数のWi-Fi機器を接続させても、1契約の定額サービスとして提供する予定」(小林氏)というのも注目だ。これまでの携帯電話・PHSのデータ通信サービスでは、定額はあくまで1つの端末に対してであったが、ユーザーが持つデジタル機器は増えている。それらがひとまとめに“1つの定額サービス”にまとめられるのは魅力的である。

 MBGは将来のコンセプトモデルであり、サービス開始当初に登場するのはPCカード型の端末だ。これはノートPCに装着してモバイルデータ通信が利用できるほか、低速ADSLの代替需要に向けとして、既存のブロードバンドルーター/無線LANアクセスポイントに装着する形でも使われる。この場合も、複数のPCがまとめて1つの定額サービスで利用できる。

エリアは密度を重視した設計にする

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 一方、アイピーモバイルの当面の課題になりそうなのが、サービスエリアである。これは新規参入キャリアに共通する課題であり、イー・モバイルはドコモとのローミングと早期のエリア拡大を目標に掲げているが、アイピーモバイルはTD-CDMAを採用することから既存キャリアへのローミングは難しい。おのずと当面のサービスエリアは狭くなる。

 「エリア設計についてはADSL的なトラフィックパターンを想定していますので、ある程度のバースト(的な通信需要)に対応できるようにします。面的な拡大も大切ですが、基地局の密度を重視していきたい。当初からセル半径の設計は現在の3Gと同じように、マイクロセル指向のものを考えています」(小林氏)

 単純に面エリアを拡大したければ、1基地局あたりのカバーエリアを広げて、エリアマップ上の「見栄え」だけよくすればいい。しかし、それではユーザーや通信需要が増えた時に、実効速度が落ちることになる。アイピーモバイルはデータ通信特化という自らの強みを生かすためにも、エリア内の通信品質を重視して、あえて密度を優先したエリア設計を行うようだ。

 「既存キャリアが許容できない(高速・大容量な)サービスや低価格を我々は実現したい。ですから、それを担保できるインフラを作らなければなりません。幸い、我々の出資会社の中にはIIJ(インターネットイニシアティブ)などインターネットのサービスやインフラ設計に長けた企業が控えています。そのノウハウを生かしながら、我々のエリアを構築していきます」(小林氏)

既存事業者とは大きく違う新規参入キャリア

 このようにアイピーモバイルは、採用する3G技術だけでなく、ビジネスモデルやターゲット層、投入する端末まで、これまでの携帯電話・PHSキャリアと大きく異なる。キャリアとして用意するサービスも、「メッセンジャーなど基本的なものは必要だと考えていますが、手探りでアプリケーションを考えている段階」(小林氏)だ。一方で、デモンストレーションで積極的にSkypeを使うなど、既存のインターネットサービスを制限する姿勢でないところは好感が持てる。

 「アイピーモバイルの(初期の)サービスは、インターネットの利用に長けたリテラシーの高いお客様に向けたものになるでしょう。多くのネットユーザーの皆さんに応援していただけるようにがんばりたい」(小林氏)

 新規参入するキャリアの意義は、既存事業者とまったく違う手法でビジネスとサービスを生み出し、価値観の転換や新規市場の創出を行うことだ。その点でアイピーモバイルは、最も新規事業者らしいスタンスを取るキャリアと言えるだろう。同社の挑戦が成功するかは現時点で不分明であるが、もし成功すれば、携帯電話産業の拡大に貢献することは間違いない。アイピーモバイルのサービスを、期待を持って見守りたい。

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