連載
» 2006年12月12日 11時50分 公開

Interview:既存キャリアとの違いを打ち出し、新たなビジネスをする──アイピーモバイルの戦略 (1/2)

他の携帯電話事業者とは一線を画し、“データ通信特化型”の3Gサービスを展開しようとしているアイピーモバイル。同社はどのような思いでサービス立ち上げを目指しているのか。執行役員常務の小林政彦氏に聞く。

[神尾寿,ITmedia]

 新規参入事業者の1つとして、総務省から2GHz帯でTD-CDMA方式を用いた携帯電話サービスの免許を受けたアイピーモバイル(2005年11月の記事参照)。同じく新規参入事業者だったソフトバンクがボーダフォンを買収し、一方のイーモバイルはドコモとのローミング契約を決めるなど(9月11日の記事参照)、大きな動きを見せる中で、アイピーモバイルの動向はやや影が薄かったというのは事実だろう。

 しかし、アイピーモバイルも2GHz帯のTD-CDMA方式導入と2007年春のサービス開始に向けて本格的に動き出した。そこで今日の時事日想は特別編として、アイピーモバイル執行役員常務の小林政彦氏にインタビュー。アイピーモバイルの戦略と展望について話を聞いた。

データ通信時代に特化するためのTD-CDMA

Photo アイピーモバイル執行役員常務の小林政彦氏

 周知のとおり、アイピーモバイルは日本の携帯電話キャリアとしては唯一、TD-CDMA方式を導入する。TD-CDMAは一時期、ソフトバンクやイーアクセスなど他の新規参入組も食指を動かしたが、既存キャリアの買収やローミングの導入など、さまざまな理由から導入を取りやめた方式だ。3G方式の事実上の標準がW-CDMA方式とCDMA2000方式にまとまる中で、それでもなおアイピーモバイルがTD-CDMA方式にこだわったのは、データ通信ビジネスに特化し、既存キャリアとの違いを出すためだ。

 「例えばW-CDMAが当初『テレビ電話』のために作られた方式であるように、そのコンセプトの源流には電話型のサービスがあります。アップリンクとダウンリンクのトラフィックが同じである、という発想があるのですね。一方でTD-CDMAは、(トラフィックが上下)非対称であることが技術の根底にあり、周波数の利用方法を自在に変更できる。極めてインターネット的なトラフィックパターンに適合させやすい技術なのです」(小林氏)

 W-CDMAのHSDPAやCDMA2000 1x EV-DOといった高速化技術では、データ通信用の領域を音声向けから切り離し、初期の3G技術よりは“インターネット的”な通信需要に対応できるようになっている。しかしTDD(Time Division Duplex)方式はデータの送受信タイミングをミリ秒単位で分割し、上り通信の時間帯と下り通信の時間帯に自在に分けて行う。そもそも自由度が高い通信方式であるため、当初からインターネット利用で多い“下り重視”のサービスが行いやすく、将来的なニーズの変化にも対応させやすいのがポイントだ。

 「またビジネスモデルの点でも、既存キャリアは音声通話で“単位時間あたりいくら”でお金を取る(回線交換の電話型)モデルが残りますが、我々は当初からデータ通信に特化しますですので定額制が前提にある。考え方が違います」(小林氏)

アイピーモバイルのターゲット層

 携帯電話キャリアの収益で、いまだ大きいのが通話料収入だ。それを持たず、データ通信・定額制に絞り込んだアイピーモバイルは、当然ながらターゲットとする顧客層が、従来の携帯電話キャリアと異なってくる。

 「我々のターゲット層はいくつかあります。まず、1つは(固定網の)ADSLのユーザーで、パフォーマンスを追い求めてFTTHにアップグレード“しない”方々です。ADSLの市場は昨年がピークでこれから下がっていくと思われますが、実は現状維持か微増の傾向を示しているセグメントが、1Mbpsから2Mbpsの低速な契約なんですね。このセグメントは(FTTHへの)流動がなく、シェアが下がっていない。2000円弱で最低限のブロードバンド環境というのは、メールやウェブしかしないといったユーザーに根強いニーズがあるのです。こういう人たちは少なくありません」(小林氏)

 パフォーマンスよりも手軽さやコストを求める層に、アイピーモバイルは無線の利便性と手軽な料金を訴求する。すなわち、このセグメント向けのサービスは、ADSLのエントリークラスのサービスプランに近い料金体系になるということだ。小林氏によると「速度制限や移動時の利用を制限するサービスプランで、料金設定を抑えることは可能です。既存のADSL料金プラスNTT回線使用料と十分に競合できる価格設定になる」という。

 「次が我々の本命のターゲットですけれども、データ通信をモバイルで求めるユーザー層です。現在は250万契約といった市場ですね。我々のサービスは(この分野に強い)ウィルコムよりも10倍近い実効速度が得られますし、既存の携帯電話キャリアには不可能な定額制を実現できる低コスト構造があります。速度と低コストの両面から、この市場にアタックします。

 ほかにも、(主流の)ハンドセット市場のユーザーですが、ここではデータ通信定額制が普及した結果、フルブラウザのニーズが出てくると考えています。だいたい市場の1%、80〜90万ユーザーだと考えていますが、ここにも(PHSより)高速で完全に定額というポジションでアタックしたい。また今後の伸びが予測される、自動車など組み込み市場の開拓も考えています」(小林氏)

 このように“データ通信特化”を武器にするアイピーモバイルのターゲット市場は多岐にわたるが、当初のサービスエリアが国道16号線の内側と限られることもあり、サービスエリアの広さが求められるハンドセット市場や自動車など組み込み市場へのアプローチは当面は難しいだろう。まずは固定の低速ADSLの代替と、東京都心部でのモバイルデータ通信市場の獲得を目指す、という形になりそうだ。

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