喜久川社長が振り返るウィルコムの2006年、そして2007年Interview:(2/3 ページ)

» 2006年12月26日 14時05分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 「セグメントごとに細かいマーケットがあり、それぞれの市場開拓を行っています。この中で我々の想定以上の伸びをしたのが、個人の音声通話ニーズですね。ここは音声定額でかなり伸びました。一方、法人市場についてですが、手堅く音声定額サービスで(純増を)伸ばしましたが、法人の(PC向け)データ通信サービスの需要が伸び悩みました。これは個人情報保護法の影響があったのではないかと分析しています」(喜久川氏)

 ここで改めて言うまでもなく、2006年は企業からの情報流出事故が社会問題として大きく注目された年でもあった。その結果、企業におけるPCの運用規定が厳しくなり、モバイルでの自由なノートPC活用は水を差されることになった。自ずとモバイルデータ通信としてのPHSのニーズも減少した、というわけだ。

 「全体として見れば、携帯電話キャリアのように(純増数に)大きな起伏はない。今年は従来のマイクロマーケティングを一歩進めて、ウィルコムユーザーの口コミも重視しました。例えば、お客様紹介キャンペーンをやりましたし、法人営業では各地で説明会を開いたりしました。ウィルコムのよさ、音声定額のメリットを(ユーザーに)伝えてもらえるように腐心しました。これらは急激な伸びにはなりませんが、地道な成長として成果を上げています」(喜久川氏)

 しかし、今年1年の純増数の推移を見ると、携帯電話キャリアでMNPが始まった10月からウィルコムの堅調な成長が失速している。これまで約6〜7万契約の純増だったものが、10月は約3万7000契約(11月8日の記事参照)、11月は約2万4000契約に留まった(12月7日の記事参照)。これは「MNPの影響で市場が荒れた」ためと、喜久川氏は説明する。

 「MNPの影響でお客様側にも混乱が起きている、と感じています。例えば、(ソフトバンクモバイルの影響で)ユーザー側にどこが本当の音声定額制なのか? という混乱が出てしまった。また、携帯電話キャリア間で競争が激しくなった影響で端末の店頭価格も下がりました。そうすると、(端末価格が)低い方にお客様が流れます。これらの影響で、8月、9月までの実績に比べますと、MNP後の伸びが鈍化しています」(喜久川氏)

 MNPの天王山と目される「2007年の春商戦」に向けて、これから携帯電話各社の競争はさらに激しくなる。間接的にとはいえ、実際にその余波を受け始めているウィルコムに不安はないのだろうか。

 「確かに(MNPで)純増が一定率で減るという影響は受けています。しかし、我々が重視しているのは法人市場を始めとするマイクロマーケットのお客様であり、ここでの“ウィルコム指名買い”は影響を受けていません。

 MNPで影響を受けたのは、むしろ若年層を中心とした“なんとなくウィルコム”という浮動層です。この傾向が継続するのか、それとも一時的なものなのかは分析しているところです。また、(契約数の)減少分を他で取り戻す計画もいくつか立てています」(喜久川氏)

W-ZERO3は「法人向け」の展開を強化する

 ウィルコムの躍進にとって、ホームランになったのが音声定額だという。では、昨年末から何かと注目されたW-ZERO3とW-SIMはどう位置づけられるのだろうか。

 「W-ZERO3とW-SIMはホームランではありません。我々としては長打ではなくヒットを狙ったもので、これらを積み上げて、いかにランナーを帰していくか、というものですね。

 例えばW-ZERO3シリーズはそれだけ(単体)ではダメで、今後、法人に入って行くにはアプリケーションが重要になります。企業の情報サービスに組み込まれていく必要があり、そこが重要だと認識しています。この部分は少し遅れていますね」(喜久川氏)

 W-ZERO3は発売直後に行列や品薄状態が起こるなどしたが、その後の売れ行きや、そもそものターゲットである法人市場への展開では不満もあるようだ。「今のところ(販売数の)8割が個人契約、残り2割が法人契約という状況」(喜久川氏)である。しかし、Windows Mobileの汎用性を生かした「作り込み」には大きな可能性があるという。

 「例えば、すでに証券会社に広がってきているのですが、W-ZERO3用にトレーディングソフトを載せて、(W-ZERO3を)どこでも簡単に使えるデイトレード端末にするプロダクトが売れています(7月18日の記事参照)。これは高齢者を狙ったものなのですが、Windows Mobileのアプリケーションが開発しやすい点と、多くの人に馴染みがあるタッチパネル操作が受け入れられていますね。

 またW-ZERO3は汎用品で大量生産されていますから、(専用品に比べれば)かなり安く作れる。しかも大画面や無線LAN機能を搭載していますので、これをいかしてスーパーマーケットなどにある電子POP端末にするという引き合いが多くきています。

 W-ZERO3には(スマートフォンとしての)王道の使い方がありつつ、様々な使い方や新市場を開拓する可能性がある」(喜久川氏)

 W-ZERO3やWindows Mobileが「当初はリテラシーの高い個人ユーザーから受け入れられる」というのはウィルコムにとっても想定内であり、来年は法人市場での拡大に力を入れていく。W-ZERO3ファミリーの新端末はしばらく投入されない模様だが、法人向けのアプリケーションやサービスは急速に増えていきそうだ。

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