SIMロック解除、MVNOの推進といった議論が本格化し始めた。
1月22日、総務省が設置した「モバイルビジネス研究会」で、新たなモバイルビジネスの成長を通じた経済活性化や利用者利益の向上を図ることを目的とした議論が始まった(1月22日の記事参照)。
すでに新聞各紙が報じているが、この議論の目玉になっているのが、現在既存キャリアが敷くインセンティブモデルの是非、SIMロックの解除、通信設備だけでなく課金・顧客管理システムの開放まで踏み込んだMVNOモデルの検討などだ。どれもが既存キャリアや携帯電話流通業者のビジネスモデルに大きく影響するものであり、今後の携帯電話産業の行く末を考える上で注目であるのは間違いない。
モバイルビジネス研究会の議論は始まったばかりであり、今年夏を目処とする報告書がどのような形になるかは不分明だ。だが、現在の新聞各紙・一般マスコミの報道を見て気がかりなのは、これまでの既存キャリアのビジネスモデルが善悪二元論で“悪いもの”と片づけられて、市場活性化の議論が安易に取りざたされていることだ。
例えば、一部では“悪名高く”紹介されることの多いインセンティブモデルだが、これには市場規模を急速に拡大し、収益性の高いサービスを広げる上で今も大きな効果がある。特に新ビジネスの裾野を広げる効果は絶大だ。これから始まる春商戦でも新FeliCaチップ搭載機の普及を促し、新たなビジネスが生まれる土壌を作るだろう(1月18日の記事参照)。また、高度なデバイス群の開発を促し、普及速度の速さによって技術の低価格化を推し進める効能があるのも忘れてはならない。
ユーザー側から見ても、確かにキャリアのインセンティブ負担の大きさが通信料の値下がりを抑制しているが、このモデルによって専売店制度が維持されており、顧客対応やサポート体制の面では恩恵を受けている。ドコモショップ、auショップといったクオリティの高い拠点店舗が全国各地で整備され、ユーザーが安心して携帯電話を使える。これを維持しているのもまた、インセンティブモデルであることは事実なのだ。
むろん、現在のインセンティブモデルには中長期的な視野で改善すべきポイントはいくつもあるだろう。この仕組みは、キャリア・メーカー・流通・ユーザーすべてに一定のメリットを持つが、市場の成長による構造変化に適応し切れていない綻びも確かにある。だが、すべてはトレードオフの関係なので、改善には慎重さと時間が必要になる。インセンティブモデルを廃止すれば、それが「ユーザーの利益」や「端末メーカーの国際競争力向上」につながるほど単純なものではないのだ。
また、最近、何かと話題になることの多いのが「SIMロック解除」の議論だが、こちらも「サービスと端末機能の連携・融合」が重要になる中で、SIMロック解除がメリットばかりと誤解されたら危険だろう。
SIMロック解除は確かに端末市場に流動性をもたらすかもしれない。だが、その一方で、ユーザーが受けられるサービスや利便性の質的な低下や、端末市場における日本メーカーの競争力を損なう危険性が大いにあるだろう。前述の専売店制度維持への悪影響も大きく、多くの一般ユーザーから見ると、実はデメリットの方が多いという見方もできる。SIMロック解除が、すなわち市場活性化やユーザーメリットに繋がるかというと、そうではないのだ。
SIMロック解除を前提に置くのではなく、SIMロックフリー端末が成立しやすい料金プランを新設するなど、ユーザーやメーカーの選択肢を広げる方向での議論が必要である。
携帯電話市場への参入障壁を低くし、サービス・料金の競争を促進するという議論も、単なる「料金値下げ合戦」、「利益なき繁忙」を促すだけで終われば、携帯電話市場の健全性や今後の成長を損なう可能性がある。
MVNOや新規参入の議論は、既存の携帯電話市場にフォーカスするのではなく、むしろ新規市場の創出と携帯電話産業の拡大を大前提に置くべきだろう。例えば、ダブルホルダー市場における「2台目のビジネス」や、新たな組み込み型ソリューションなどで、既存キャリアを補完する形のMVNO事業者が登場した方が、市場全体の活性化やユーザーのメリットになる。中長期的に見ても、日本の情報通信産業の競争力維持・拡大に繋がるはずだ。
競争原理の導入と促進、閉鎖性の払拭、通信料金値下げ、市場の活性化などは、確かに口あたりのよいフレーズだ。しかし、背景事情が理解されないまま誤った認識が広がり、バランス感を欠いた議論が行われると、携帯電話産業と市場の行く末が間違った方向に進みかねない。
携帯電話産業全体が、今後も健全かつ持続的な成長と拡大をするためにはどうするべきか。総合的なユーザーのメリット増大をするにはどうすべきか。
モバイルビジネス研究会をはじめ今後の議論や報道が、大局的かつ慎重な姿勢で行われることに期待したい。
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