低迷するPHS業界で一人気を吐くのが、KDDIグループを離れ、2月からWILLCOM(ウィルコム)として再出発するDDIポケットだ。「我々はとにかくPHS事業が好き、これで何とかしなくてはという思いでずっとやってきた」と、経営企画本部長の喜久川政樹氏は語る。

法人の音声通話に、PHSならではのサービスを提供したい

ITmedia 2004年の携帯電話業界はどんな年だったでしょうか。

喜久川 移動体通信業界はまだそれほど動き始めていないですが、ソフトバンクやイーアクセスといった企業が新たに参入したいという意志を見せた年でしたね。固定通信業界で起こっていたこと、例えば価格破壊とか、資本の流動といったことが移動体のほうでも起こりそうだという、予感を感じさせる一年でした。今までの移動体通信の第1段階の総決算の年といえるのではないでしょうか。

 私自身は10月に資本分離したことがやはり一番印象が強いです。大きな節目を迎えて、これまでの縮小均衡から拡大へと変わっていく、今まさにその渦中におりますので。

ITmedia 特にPHS3社は、2004年は三者三様の方向に向かった年だったと思いますが、その違いを生んだ原因は何でしょうか?

喜久川 PHS事業に対する思い入れの違いでしょうね。我々はこの事業が好きで、「この事業をなんとかするんだ」という気持ちでずっとやってきました。お金がないながら技術開発を行い、設備を投資し、今でも多少お客様に不自由はかけていますが、携帯電話とさほど変わらないエリアをカバーしてきました。

 NTTパーソナルさんはがんばっておられましたが、ドコモになり、(PHSは)携帯電話の補完的な位置づけにさせられてしまった。「3Gになったらいらなくなるんだから」といわれて、誰もそれが本当かどうか証明しないうちに、ドコモ全体の中でPHS事業が埋没していってしまったわけです。

 アステルさんはもともと資本構成が複雑で、地方によってやり方も違いましたね。でもネットワークというのは本当はそれではいけなくて、どこへいっても同じように使えなくてはならないのです。こういう各社の違いが、技術開発への考え方や、基地局の置き方に反映されていったのでしょう。

ITmedia モバイルセントレックスについてはいかがでしょう。PHSは「事業所コードレス」という形で実績もあり、ある意味先行していることになります。

喜久川 先行しているし、今でも強みがあると思います。auのOFFICEWISEなど、モバイルセントレックスでできるのは「ビル内など、決められたエリアを定額にする」ということですね。ドコモのPASSAGE DUPLEXは、それを無線LANでやろうという試みです。我々はもちろんそういったモデルもできますし、携帯電話以上のサービスも提供できます。

 1つめの強みは、今入れているPBXを替えなくても、そのままPHSを組み合わせて事業者コードレスを実現できること。2つめとして、屋内基地局も携帯電話より設置しやすい点です。もとから我々は屋内に基地局を持っている上、その屋内基地局をさらに小型化したナノセルも2005年から登場します。こういうものを使って、ビル内でトラフィックが集中しても対応できます。

 携帯電話にはできないサービスとしては、ビル内だけでなく、ビル外を含めた内線利用があります。いつから始まる、というのはまだ約束できないですが、我々だったらできるでしょう。ITX(NTT網をバイパスする装置)を導入することで、NTTへのアクセスチャージがかからなくなり、そうすればPHS-PHS間の定額化は見えてきます。これを使えば、auやドコモのモバイルセントレックスよりも、さらに幅の広いサービスが提供できるのではないかと考えています。

 また、auやドコモのモバイルセントレックスは、初期導入コストがどうしても高いですね。我々は安く提供できるので、そこも違いになって出てくるでしょう。音声通話の品質も含め、法人顧客に再訴求できるいいチャンスになるだろうと思っています。

ITmedia 現在、御社の法人の音声通話契約数は伸びているのですか?

喜久川 はい、はっきりした数字は出していないのですが、微増しています。データ通信も契約数は伸びています。

ITmedia モバイルセントレックスというと、通話だけでなく、例えばグループウェアにアクセスできるなど、ソフトウェアも利用しようという話題もあります。通話以外の点ではどのあたりがポイントになるとお考えですか。

喜久川 定額でWebブラウザが使えて、HTMLでもコンパクトHTMLでも見られる端末がありますから、そのへんはもちろん視野に入っています。ただ、グループウェアと組み合わせるような端末を提供するとしたら、我々が特に注意しなくてはならないことはセキュリティですね。

 来年4月以降は個人情報保護法が改訂されて、お客さんのデータを扱うような業種になればなるほど、重要な問題になります。(PHSや携帯電話は)ノートPCよりもさらに落としやすいわけで、「落としたときに大丈夫なのか」という課題をきちんとクリアしないと、そう簡単に普及はしないでしょう。逆に、そこをしっかり解決した商品を作れれば、それは大きなビジネスチャンスになりうると思います。

 いくつか対策となり得るソリューションはあるのですが、値段がなかなか難しいですね。AirH"の月額利用料より高い、といったようではなかなか普及しないでしょうし。セキュリティというのは高く付くものです。これは携帯でもPCでも同じですが、大筋としては、大事なデータは見ることはできても端末には残らないようにする。メール、ブラウザ、どれも同じです。ソフトウェアとセキュリティ、セットにした商品でないとなかなか普及は難しいでしょうね。

ITmedia 無線LANについてはいかがですか。アステルさんがPHSの基地局に無線LANを統合するというニュースなども出ていますが。

喜久川 無線LANはホットスポットであって、AirH"の補完的に使うことはあっても、競合するものではないと考えています。モバイルの通信というのはやはりワイドエリアで展開しないと、価値が半減してしまうでしょう。外に2.4GHzや5GHzの無線LANの基地局を付けても、意味がないと思うのです。もっと直進性が強くて、減衰しにくい方式ならともかく、今の無線LANでは正直、あまり意味があるとは思えません。ほかの周波数を使うならまだ分かりますが。

我々だからできることをやっていく

ITmedia 2005年、御社が今後取り組むべきテーマはなんだと考えていらっしゃいますか。


「2月2日には社名もWILLCOMに新しく変わり、ロゴマークも変わって、2005年は全く新たな会社としてスタートする年になります。我々のお客様は『なんとなく使っている』という人がほとんどいないのが特徴なのですが、さらに独自のマーケットを切り開いていきたいですね」

喜久川 DDIポケットではなく、WILLCOMというまったく新しい会社として、独自マーケットを作っていく初年度になるだろうと考えています。

 テーマはいくつかありますが、1つ大きいのはユーザビリティの改善ですね。難しいものを、いかに簡単に使わせるか。例えばAirH"のドライバをCD-ROMで配布していたのですが、モバイルノートにはCD-ROMドライブなんて付いていないんですね。そこで、ドライバやメガプラス(高速化ソフト)をUSBメモリに入れるとか、そういう試みをしていきます。音声端末も同じことです。

 こういう使いやすさ、高速化、あとは低電磁波ですね。低電磁波な端末を必要としている方はたくさんいるのに、PHSは非常に低電磁波であることはまだまだ知られていないので、そういった良さを伝えていくことが必要だと思います。ペースメーカーを使っている方への特別料金なども検討しています。「我々だからできること」をやっていきたいですね。電磁波が弱いことを活かして「お子さんでも使える」「病院でも安心」といった“優しさ”を生かした商品です。

 携帯電話とは違う良さがPHSにはあるので、それを分かって使ってもらうところに我々の存在意義があると思っています。我々のお客様は、AirH"やAirH"PHONEを使っているようなモバイルやITリテラシーの高い方と、お子さんや年配の方など、両極端なんですね。マーケティングは非常に難しいですが、そこをはっきりさせていくことは2005年の課題です。データ通信も、音声通信も、両方しっかりやっていきます。

ITmedia 2005年、通信業界はどのように変わっていくでしょうか。

喜久川 モバイルセントレックスというか、法人の音声契約を巡っては、固定通信会社も巻き込んでの戦いになるでしょうね。個人契約の音声については、ソフトバンクやイー・アクセスといった会社が新規に参入したら、大きく動くでしょう。価格競争は間違いなく起こるでしょうね。我々は低価格化への圧力がかかってきても、あまり影響はありませんが。それがなければ比較的安定するでしょう。あとはボーダフォンですね。今年はシェアを落とされましたが、来年どう動くか注目ですね。

[ITmedia]

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