携帯キャリア3社が語る、次世代の移動通信:第4世代移動通信システムワークショップ
総務省主催の「第4世代移動通信システムワークショップ」で、携帯キャリア3社がそれぞれの次世代通信網戦略について話した。
4Gとは何か。研究開発はどこまで進んでいるのか。横須賀リサーチパーク(YRP)で、総務省の主催する「第4世代移動通信システムワークショップ」が3月29日に開催された。各社の取り組みを紹介しよう。
第4世代移動通信、いわゆる4Gは、その時々で「Beyond 3G(B3G)」「Beyond IMT-2000」「IMT-Advanced」のように呼び名を変えることがある。Beyond(かなた)やAdvanced(上級の、進歩した)の名のとおり、4Gは3G(IMT-2000)の進化系という位置づけだ。ここに、3GLTE(LongTerm Evolution)が加わって、4Gに至るまでの各社のロードマップができつつある。
ドコモの4Gは2015年にスタートか?
尾上氏は、FOMA契約者の順調な伸びの要因は、料金体系の整備、端末の品ぞろえ、サービスエリアの拡大などにあるとし、「日本以外で商用サービスを開始したオペレーター数の増加にも比例している」と国際的な広がりも強調した
今回のワークショップでは、関連団体やメーカーの講演だけでなく、国内の携帯キャリア3社もそろって登壇した。キャリアの1番手として登場したのがNTTドコモ。IP無線ネットワーク開発部長の尾上誠蔵氏は、2年前の発表段階から計画が順調に進んでいることを踏まえ、4Gに向けた3Gの展開シナリオを紹介した。
ドコモでは2006年にHSDPAを採用し3Gの高速化を果たした後、上りを高速化するHSUPAの導入に着手。さらに「スーパー3G」の準備に入る。スーパー3Gは「3.9G」とも呼ばれ、3Gから4Gへのスムーズな世代交代を実現するという役割を担う。
さらに尾上氏は4Gの実験の模様として、時速30キロ程度で走行する実験車で、安定したスループットが得られることを動画で紹介。MIMOの採用によって24チャネル(約700Mbps)分の映像がスムーズに受信される様子が会場のスクリーンに映し出された。
4Gさえも飲み込むKDDIの「ウルトラ3G」
KDDIの執行役員で技術統轄本部長を務める安田豊氏は、同社の今後の計画として、3.1Mbpsでの通信に対応したCDMA 1x EV-DO Rev.A端末を2006年に投入することを明言。さらに約15Mbpsを実現するRev.B(NxEV-DO)や、IMT-Advancedに相当する、通信速度100MbpsオーバーのEnhanced CDMA2000を投入する予定だ。
KDDIの提言する「ウルトラ3G」は、ネーミングだけをみるとドコモのスーパー3Gによく似ている。しかし本命となる4Gへの助走路という位置づけのスーパー3Gに対し、ウルトラ3Gは4Gの概念も含んだものとなっているのが大きく異なる。ウルトラ3Gとは、3Gや4Gといったモバイルネットワークだけでなく、無線LANなどのワイヤレスネットワークから光ファイバやADSLなどの固定網を含めたいわゆるFMC(Fixed Mobile Convergence:固定と移動の融合)ネットワークのことである。
ウルトラ3Gでは、IPベースのネットワークにアクセスする手段として、さまざまな技術を組み合わせられる。現行の3Gはもちろん、IEEE802.11a/b/gから11n、11e、11iといった無線LAN、IEEE802.16eとして標準化された「モバイルWiMAX」、そして第4世代移動通信のIMT-Advancedだ。ここであえて4Gという言葉を使わないのは、ウルトラ3Gのネーミングと混乱させないための配慮かもしれない。
ボーダフォンは4Gで増加するトラフィックなどを研究
キャリアとしては最後に登場したのがボーダフォン。技術本部テクノロジー開発部長の野寺義彦氏は、ソフトバンクによる買収の件(3月17日の記事参照)が関係しているのか、HSDPA導入など将来への具体的な戦略には触れず、業界全体を見渡し4Gの普及に必要な条件などを発表した。
「2Gから3Gへの流れを見ていると、3Gから4Gに切り替わるのに5年かそれ以上かかるように思われる。だが、グラフの縦軸を加入者数ではなく、トラフィックのボリュームに置き換えると、携帯電話の市場がまだ飽和していないことが分かる。1人当たりのデータ量が数倍、もしくはこれから先10倍以上になるという予測もできる。ネットワークに必要な容量も相当に大きくなるだろう」(野寺氏)
将来的に端末が50Gバイト程度のHDDを搭載したり、外部メモリカードも10Gバイトクラスへと進化することが考えられるが、これらは単に記憶領域が大きくなったというだけでなく、蓄えられたデータがネットワークに流れ出すということを表していると野寺氏は指摘する。一見、無関係なように見えるVGA液晶画面の採用も、ネットワークにとってみれば負荷が増す一因となるわけだ。
また、2Gと3Gのようにネットワークが全く異なる場合、急速な世代交代によってある日突然新しいネットワークに負荷がかかるようになる。4Gの準備期間として各社が3.9Gを採用しようとしている理由の1つがこれだ。ボーダフォンではこうした研究を重ね、自社のネットワーク構築に生かす考えのようだ。
野寺氏は最後にIPR(Intellectual Property Rights)、すなわち知的財産権の問題に触れた。「プレーヤーの少なかったGSMの頃とは違い、業界の拡大によって今は関係するプレーヤーが多すぎる。どこがどういうIPRを持っているのか早い時期に整理しなければならない。IMT-Advancedの標準化にあたってIPRのライセンス問題を解決し、各社が安心して公平に利用できるよう実現していきたい」
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