トヨタとドコモが同じ夢に向かう――トヨタファイナンスの戦略(後編) :Interview(3/3 ページ)
インフラや方式の囲い込みで競争をしても無駄、まずは自社がリスクを取り、FeliCaクレジット市場のパイを拡大する――実はドコモのスタンスと共通するところがあるというトヨタファイナンスに、QUICPayを推進する理由を聞いていく。
普及のきっかけとしてタクシーに注目
今後、トヨタファイナンスは様々な業種・業態にリーダー/ライター設置を進めていくが、その中で注目しているのはタクシーだという。
「QUICPayのメリットが一番あるのがタクシーだと思っています。タクシーの支払いというのは、現金だと面倒ですよね。小銭が発生するし、高額紙幣だとお釣りの心配をしなければならない。タクシーのクレジットカード対応は進んでいますが、こちらは認証に時間がかかったり、サインしなければいけないといった面倒がある。支払いに時間がかかれば駐車時間が延びますから、まわりのクルマにも迷惑をかけてしまう。
QUICPayで支払い時間を短縮できれば、利便性が向上しますし、渋滞減少にも貢献します。またセキュリティの面でも、キャッシュレス化は犯罪抑止の面で貢献できます。お客様に利便性を体感していただく上でも、タクシーは分かりやすいのではないかと考えています」(後藤氏)
タクシーのFeliCa決済導入は、少しずつ各方式それぞれに進んでいる。東京近郊ではビットワレットのEdyがANZEN、飛鳥交通、中央無線タクシーで利用できるほか(3月2日の記事参照)、JR東日本のSuicaは国際自動車や日本交通で利用可能(4月12日の記事参照)。クレジット系としてはドコモと三井住友カードのiDが東京無線協同組合で利用できる(3月22日の記事参照)。JCBも早くからタクシーには着目しており、QUICPayは2005年から先行的に神奈川県で一部のタクシーに対応している(2005年8月2日の記事参照)。これに対しトヨタファイナンスでは、「名古屋のタクシー会社を手始めにQUICPay普及を推進していく」(後藤氏)という。
トヨタとドコモは同じ夢に向かう
トヨタファイナンスは今回、QUICPay機能をカードに内蔵するが、アクワイアラ業務ではQUICPayとiDの両方に対応した共用リーダー/ライターを設置していく。また将来的にiDへのオプション対応を表明するなど、iD陣営との距離が一気に縮まった。この背景には、FeliCaクレジット市場拡大に対する考えがドコモと一致した、という理由がある。
「(FeliCaクレジット決済の)社会インフラ整備では、ドコモさんと“一緒にやっていきましょう”と意見が一致しました。(NTTドコモの)夏野さんとクレジットマーケットの拡大について話したのですが、トヨタとドコモはこの部分ですごく共感しているのですね。同じ夢に向かっているからこそ、QUICPayとiDの共用リーダー/ライターなどが実現したのです。
また、お客様の立場、加盟店様の立場から考えても、FeliCaクレジット決済の方式の違いで利便性が損なわれるというのは何のメリットもない。方式の垣根を越える必要がある」(後藤氏)
「お客様のサービス向上や獲得という点で競争するのはいいのですが、フィールド(インフラ)で競争や囲い込みをすると、FeliCaクレジット決済の普及そのものが阻害されてしまいます。それは避けなければならないですから」(宮本氏)
トヨタファイナンスは、ドコモと一緒にFeliCaクレジット市場のパイを拡大し、その上で健全な競争をしたいという考えだ。過去のドコモのインタビューでも、「まずはパイの拡大を優先したい」という考えが示されており、そこで意見が一致したのだろう。
トヨタとドコモが同じ夢に向かう。その影響力がどれだけ大きいか、想像できない人はいないだろう。FeliCaクレジット決済の分野で、まさにこれが起きようとしている。QUICPayとiDは、今後、急速にユーザーと加盟店を増やし、新たなマーケットを築いていく。FeliCa決済市場そのものの拡大も加速しそうだ。
トヨタファイナンスは、ドコモと同じく、自らがリスクを取り、スピーディーかつ積極的に新市場開拓に乗り出す。同社がQUICPay普及のエンジンになり、今後のFeliCaクレジット決済分野で重要な役割を担うことは間違いないだろう。トヨタファイナンスの取り組みに期待していきたい。
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