「2.5GHz帯を全力で取りに行く」──ソフトバンクモバイル松本副社長:ソフトバンクモバイルの2007年(2/2 ページ)
次世代の携帯電話ネットワークを構築するためには、周波数がいる──。ソフトバンクモバイルの松本副社長は、同社がNTTドコモやKDDIと対等に渡り合っていくのに、2.5GHz帯の周波数割り当ては不可欠との考えを示した。
松本氏は、モバイルWiMAXと802.20の技術検証の際には、3つのポイントを重視していきたいという。
「まずはデータ当たりのビット単価が安くなくてはならない。それには周波数あたりのデータスループットが重要。もう1つはリンクバジェット(基地局から端末までの電波の到達距離。これによってエリアカバーに必要な基地局の数と、基地局あたりの単価が割り出せる)。この点を考慮し、安価なコストのネットワークを構築できるかが重要だ。またサービス面では移動体をカバーできることが課題になってくる。クルマのなかでも使えることは必須。もう1つは面的なカバーで、ハンドオーバーがきちんとできなくてはならない。さらにQoSも重視したい。音声通話や対戦ゲームを実現するにはQoSが強くなくてはならないからだ」(松本氏)
さらに、次世代の通信システムを決めるには、技術的な側面だけでなく、どのようなビジネスモデルが描けるかも考慮しなくてはならない。
「技術的な検証だけでなく、どんなビジネスモデルが展開できるか、またインテルやクアルコムから何らかのサポートが得られるか、といったことも見極める必要がある」(松本氏)
モバイルWiMAXに関しては、無線LANとともにノートPCに標準搭載される可能性が大いに期待できる反面、技術的に解決しなくてはならない課題も多い。一方802.20は、技術的には優位な点があるものの、インテルのような対応チップの広がりは期待できそうにない。まだフィールド実験を行っていないのもマイナスだ。そのためソフトバンクモバイルでは、いまだ通信システムの選択に苦慮している。
2.5GHz帯は取れると確信している
とはいえ、これまで2.5GHz帯に対しては積極的な動きを見せていなかったソフトバンクが、一転して、獲得に意欲を燃やしている。
「2.5GHz帯は、都心部では3Gの補完システムとしても機能するし、半固定ネットワークの用途にも使える。ソフトバンクモバイルとしては、NTTドコモのスーパー3G、KDDIのEV-DO Rev.Cに匹敵するシステムを構築していきたいと考えている。現在PDCで利用している1.5GHz帯を巻き取れる(別の通信方式でも利用できる)のは2011年以降になってしまうので、2009年以降を戦うには2.5GHzが絶対に必要だ。次世代の通信システムを導入しようにも、空いている周波数がないからだ。国が携帯電話業界に公平な競争関係を作りたいと考えているのであれば、(現状、所有する周波数が少ない)うちの会社に周波数を割り当てて欲しい。2.5GHz帯は、きちんと事業計画を評価した上で割り当てが決まると思うので、取れると確信している」(松本氏)
「MediaFLO」も事業化へ向けて歩みを進める
2.5GHzとともに、行方が注目されている700MHz帯の再編にも、ソフトバンクモバイルは積極的にアピールしていく。
現在、アナログテレビ用として利用されている700MHz帯は、2011年のアナログ停波の後に整理されることから、さまざまな事業者が新たなサービスを始めようと計画を練っている(2006年11月の記事参照)。クアルコムジャパンもその1つ。米QUALCOMMは、アメリカで「MediaFLO」と呼ばれる多チャンネルの動画コンテンツ配信サービスを手がけており、これを日本でも導入しようと準備を進めている。すでにKDDIとクアルコムジャパンの合弁で企画会社が設立されているほか、ソフトバンクモバイルでも企画会社を設立。事業会社の設立も視野に入れているという。
「MediaFLOは、周波数が整理される2011年から始めるという選択肢もあるが、さすがに5年も待つことはできない。できれば、2008年中にも始めたいと思う。700MHz帯はいたるところに電波の空き地があるので、そこを利用させてもらいたい」(松本氏)
700MHz帯には、地域によって所々に使われていない帯域があり、松本副氏としてはその空き地を一時的に借りることで利用させてもらいたいと考えている(2006年5月の記事参照)。それが可能であれば、すぐにでもMediaFLOのサービスを開始し、周波数が整理される2011年には新しい周波数帯域にすべて引っ越すという考えを持っている。
「電波は国民の財産であるだけに、有効活用していくべき。空いている周波数を貸し出すというのは前代未聞のことではあるが、総務省には是非ともまったく前例のないことに取り組んで欲しい」(松本氏)
NTTドコモやKDDIと対等な戦いを挑むには、新たな周波数が必要と唱える松本氏。同社の孫正義社長が掲げる「10年後には1番になる」と公約も、この周波数の行方が大きなカギを握りそうだ。
関連記事
- 携帯電話ビジネスのプロは、なぜソフトバンクに移ったのか──ソフトバンクモバイル松本氏に聞く(前編)
クアルコムジャパンの会長や米Qualcommの上級副社長を務めた松本徹三氏が、ソフトバンクモバイルの執行役副社長 技術統轄兼最高戦略責任者(CSO)に就任した。この“大型移籍”の背景には、松本氏の「日本の通信業界を変えたい」という思いがあった。 - 3年後には「10年後に業界1位」を現実感あるものに──ソフトバンクモバイル松本氏に聞く(後編)
「日本の通信業界を変える」べくソフトバンクモバイルへの転身を決意した松本徹三氏。後編では松本氏が見据えるソフトバンクの未来、そして日本の携帯市場の将来について聞いていく。 - 周波数の奪い合い〜800MHz、そして1.7GHzの行方は?
携帯電話用周波数として突如浮上した1.7GHz帯。2006年にも利用可能になるこの帯域を巡り、各社が割当を主張。「既存事業者に周波数は足りているのか」「新規参入の是非は」などが今後の焦点となりそうだ。 - スーパー3Gのポリシーは「ロケーションの活用」―― NTTドコモに聞く
ムーバからFOMAへの移行に比べ、3.5G、3.9Gへの移行はスムーズに進みそうだ。そのポイントは“今あるロケーションを生かして高速化技術を用いること”だという。HSDPA、スーパー3Gへの移行スケジュールについて聞いた。 - 「固定」「移動」を気にしない世界へ──KDDIのウルトラ3G構想
「“固定”も“移動”も関係なく1つの網の中で、その時々に応じて最も適した通信形態を提供する」──。これがKDDIが推進するウルトラ3G構想だ。 - 世界共通のプラットフォームを目指すモバイルWiMAX
モバイルWiMAXは、KDDIを筆頭に、多くのキャリアが興味を示し積極的に実験を行っている注目の技術だ。WiMAXフォーラムは日本市場をどう見ているのだろうか。 - ソフトバンク、BBモバイルに「WiMAX推進準備室」設置
ソフトバンクグループのBBモバイルは1月1日付けで、WiMAX推進準備室を設立したと発表した。技術者を中心とした専任スタッフを集中的に投入するという。 - IEEE 802.20の、モバイルWiMAXに対する優位性とは――クアルコムジャパン
次世代通信技術として、モバイルWiMAXではなくIEEE 802.20を推すクアルコム。802.20の優位性、そして課題について、山田社長に聞いていく。 - Qualcomm副社長の松本徹三氏、ボーダフォンの副社長に内定
ボーダフォンの執行役副社長に米Qualcommの上級副社長松本徹三氏が内定した。技術統括兼最高戦略責任者(CSO)を務める。 - ソフトバンク、モバイルWiMAXの実証実験を開始
ソフトバンクグループのソフトバンクモバイル、ソフトバンクBB、ソフトバンクテレコムが、2.5GHz帯を使ったモバイルWiMAXの実証実験用無線局免許を取得した。葛西エリアで商用化に向けた実験を開始する。 - EV-DOは4200円定額制〜11月28日全国一斉開始
“ケータイ版ADSL”──。KDDIは高速データ通信サービス「CDMA 1x WIN」を発表。通信方式「EV-DO」を使い、下り最大2.4Mbpsの通信速度を月額4200円の定額で提供する。定額制を生かしたテレビ型のコンテンツ「EZチャンネル」もスタートする。 - アナログテレビ終了後の帯域争奪戦、ポイントは「モバイル向け放送」と「クルマ」(前編)
ドコモ、フジテレビ、スカパー!等が共同で会社を設立、700MHz帯を使った携帯向け放送に乗り出す。一方、同じくこの帯域を狙うのが、KDDI、ソフトバンクモバイルなどのMediaFLO陣営だ。“携帯向け放送”はこれからどうなっていくのだろうか? - アナログテレビ終了後の帯域争奪戦、ポイントは「モバイル向け放送」と「クルマ」(後編)
700MHz帯を狙っているプレイヤーは携帯・放送関連業界だけではなく、自動車業界も名乗りを上げている。複数の業界をクロスオーバーすることで、新しい市場が順調に立ち上がるとするならば、その仲立ちにふさわしいのは携帯事業者ではないだろうか。 - 携帯向けに特化した放送技術「MediaFLO」
米Qualcommがまもなくキャリア向けのサービスを開始する「MediaFLO」は、携帯向けに特化して真っさらの状態から開発された放送技術だ。 - 「MediaFLOとワンセグを共存させる」――Qualcommのチップ戦略
「携帯向け放送」としてライバル関係に見られることもあるMediaFLOとワンセグ。しかしMediaFLOを推進するQualcommは、両技術に対応したチップを開発した。その意図は?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.