不正コピー防止の“埋まらない5%”

ブロードバンドコンテンツにとって,著作権管理は深刻な問題。いろいろな対策が考えられていはいるが,いずれも完全とはいえないようだ。

【国内記事】 2001年12月18日更新

 ブロードバンドコンテンツを提供する側にとって,不正コピーの防止は死活問題。しかし依然,業界全体が試行錯誤の段階にあるのというのが現実だ。

“コンテンツID”とその限界

 著作権保護の方法の1つとして,よく名前が挙げられるのが「コンテンツID」。これはIDや著作権属性などの情報を埋め込み,権利の所在を明確にする仕組みだ。

 その仕様としては,1999年8月に発足したcIDf(コンテンツIDフォーラム)のものが有名だ。同フォーラムにはNTTやシャープ,日立,電通,NHKなど国内の有名企業が多数参加しており,事実上の業界標準となりつつある。


(C)Copyright 2001,cIDf
コンテンツIDの構成。ID管理番号のほか,著作権属性や流通属性などの情報を付加される。コンテンツIDはID管理センターのIPR-DBに保存される

 コンテンツIDを埋め込まれたコンテンツなら,このIDを見ることで,ファイルが違法な利用状態にあるかどうか明確に判断できる。サーバを通さずGnutellaなどのP2Pソフトでデータを共有されても,「ID情報を元にユーザーを追跡できるのでは」と,期待する声も大きい。

 しかし,違法な利用をしたユーザーを実際に追跡して摘発できるかというと,これはまた別の話。「現時点では,サーバを通さず広まったものをどうやって追跡するのかという点で,簡単に導入できる方法がない」技術者達はこぼす。

 「ネットワークにある全ての動画ファイルをいちいちチェックするのは大変な手間だ。ファイルの拡張子を変更されると,検出するのが困難になる」(著作権保護ソリューションを提供する企業の技術者)。

“WMT”とオープン性の憂鬱

 著作権保護で,業界から一定の評価を得ているのがWindows Media TechnologyのDRM(Digital Rights Management)技術だ。Microsoftのこの技術は,あるPCでコンテンツを再生すると,その端末のID情報がコンテンツに書き込まれるというもの。これにより,そのコンテンツをほかのPCでは再生できないようにできる。

 すでに国内でも複数のコンテンツプロバイダに採用されており,信用は高い。ただし,この技術にも問題がある。この技術を利用すると,必然的に再生プレーヤーは「Windows Media Player」しか選択できない。その上,Mac版のWindows Media Playerは,いまひとつ動作が安定していないのだ。

 あるコンテンツプロバイダは「Macユーザーからコンテンツを視聴できないと言われ,こちらでも確認したが,原因はMac版Windows Media Playerにあった」と話す。

 コンテンツをより広く提供したいコンテンツプロバイダにとっては,Windowsユーザーにしかサービスを安定して提供できないのはつらいだろう。

“軽い”仕組みという束縛

 著作権管理を進めていく上で悩ましいのは,「あまりたくさんの著作権保護機能を付加すると,今度はサイトのレスポンスが悪くなってしまうおそれがある」ということだ。

 著作権保護に使う暗号化を平易なものにすれば,解かれてしまうリクスが高くなる。一方,複雑にすれば不正利用の可能性を減らせるが,やりすぎるとサーバの処理に負荷がかかり,ユーザーの使い勝手が悪くなってしまいかねない。このあたりは,トレードオフの関係なのだ。

 実際,先月来日したDanni Ashe氏もZDNetのインタビューに,「(不正コピーの)対策はあるにはあるのだけれど,そういった機能を組み込むと,サーバ側の処理が増加して,コンテンツを表示するのに時間がかかってしまう」と語っている。使い勝手をとるか,安全性をとるか。サイト側は,バランスの取り方に頭を悩ませている。

埋まらない“5%”を抱えて

 だが,それでも業界は確実にコンテンツ配信の商用化に向けて進みつつある。11月には,WOWOWがコンテンツの有料ストリーミング配信を発表した(11月27日の記事参照)。ほかにも大手ISPやコンテンツプロバイダのサイトなどで,有料配信は徐々に広がりを見せている(12月5日の記事参照)。

 もちろん,著作権管理の問題が100%解決したわけではない。実際,WOWOWの吉岡義朗社長は発表会場で「2002年5月末までサービスを提供し,ISPなどと協力して著作権管理技術の研究・検討を進めたい」と話していた。ほかのコンテンツプロバイダからも,「サービスをはじめてみないと,弱点もわからない」といった声が聞こえる。事実上,見切り発車なのだ。

 彼らは一様に「100%は無理でも,90〜95%で商用サービスとしてやっていける」と話す。これは逆にいえば,最後の5%はまだ埋めきれていないということだ。業界は5%の不安を抱えたまま,それでも前に進もうとしている。

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[杉浦正武,ITmedia]

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