ニュース 2002年8月12日 00:19 AM 更新

わが家のブロードバンド化計画 FTTB/VDSL編

光収容の既築マンションをブロードバンド化するのは難しい。技術的な問題だけではなく、住民の意志統一が必要になるからだ。今回は、成功例の1つをケーススタディとして紹介しよう

 どうやら、わが家のブロードバンド計画は世の中のトレンドと共に常に変貌していくようだ。都内でADSLがその数を増やし始めた頃、なんとか1.5MbpsのADSLサービスへとたどり着き、フルレートサービスの開始と共に8Mbps回線への切り替えにも一応成功した。2000年の夏に、集合住宅でのインターネット接続環境を嘆く記事を書いていたのが嘘のようだ。

 最近では、新規分譲マンションのインターネット対応が珍しいものではなくなり、徐々に既存マンションへのインターネット接続環境が整備されつつある。そんな都内のマンション事情の中、これまた住んでいる分譲マンションがFTTB(Fiber to the Building)/VDSLへと移行することに成功した。といっても、自分で何かをしたわけではない。実に自然に移行することが可能だった。


MDF室に設置されたVDSL装置

 このあたりの背景と事情、そして導入後の結果について、実際に導作業を進めた管理組合理事の話を交えながら、ケーススタディとして紹介することにしたい。

メタル回線争奪戦

 東京めたりっく通信が都内でADSL事業を開始した頃はもちろん、フレッツADSLがサービスインした頃も、まだメタル回線の提供ポリシーや業者間取引のルール作り、価格設定などは、全く整備されていなかった、とNTT東日本の広報担当者は振り返る。

 現在、メタル回線が必要だと言う顧客に対して、出来る限り回線を提供するというスタンスで収容替えやタップ外し、経路変更などの対応まで行われている。もちろん、それにはコストがかかるわけで、追加コストを一切支払わずにメタル回線へ切り替えた、あるいは一切収容替えを認められなかった、といった極端な事例はなくなってきている。逆に言えば、現在は対価さえ支払えば、回線が存在する限り、それを利用可能なのだ。この違いは大きい。

 もっとも、規模の大きな集合住宅において、メタル回線を確保することは決して簡単なことではなくなってきている。というのも、光回線で収容されている集合住宅の場合、引き込まれているメタル回線数があまり多くない(皆無ではない)。

 さらに電話局から最寄りのき線点までの経路に、必ずメタル回線が残っているとは限らない。NTT東日本(西日本も同じ)は、「すでに敷設済みの空きメタル回線(残地メタル)は積極的に提供するが、新規にメタル回線を敷設することはしない」という姿勢だからだ。いずれは光ファイバーになるから、というのがその理由だ。

 “争奪戦”と書くと語弊があるかもしれないが、もともと、それほど多くの残地メタルが存在しないところに、田圃や畑が大規模マンションになった場合など、ブロードバンド回線の利用希望者に対して絶対的なメタル回線数が不足する可能性もある。

 わが家の場合、結構古くから住宅と工場の多い地域だったため、残地メタルの数は多そう。だが、周りには大規模マンションも少なくない。全167戸中、わが家を含め4戸はADSLを利用できていたが、数戸の入居者はADSLの導入を断られていた。「メタル回線が残っていない」というのが、その理由である。

インターネットへの意識の高まり

 入居者年齢層の違いにより傾向は異なるため、一概にすべてのケースで話を進めることはできないが、わが家のように30代から40代前半の世帯主中心の集合住宅では、インターネット接続に対するデマンドはかなり大きいようだ。以下は、すべてわが家のあるマンション管理組合が行ったアンケート結果について、担当理事から伺った話などをもとに話を進める。

 167戸中、インターネット接続手段を集合住宅全体で提供することに関して、過半数が賛成、反対者はほとんどいなかった。そればかりか、導入後の申込状況を見ると約50戸程度がブロードバンドで接続している。まだサービスインから1カ月も経過していないことを考えると、かなり高い数字だといえる。

 すべての人たちに話を聞くことはできないが、IT系の仕事をしている人はもちろん、やはり会社でパソコンを使っている人や、パソコン教育などなど、さまざまな理由で意識が高まっているようだ。また、IP電話やテレビ電話などへの期待も予想以上に大きい。事業者の開いた説明会では、IP電話サービスに関する質問が相次いだ。

 結果を先に書いてしまうが、導入されたのは下り最大15MbpsのVDSLを用いたFTTBサービスだ。つまり、マンションのMDFまで光ファイバーを導入し、ここから既設の電話線を使って各戸に接続している。メタル回線のない部分を光ファイバーでカバーする形だ。

 ところが、驚いたことに、このサービスを導入する際も「家庭に100Mbpsの回線が来る時代に、15Mbpsの構内速度は遅すぎる」という意見まであった。FTTB/VDSLの場合、VDSLの速度は光ファイバーとのゲートウェイまでは帯域を占有するため、決して遅くはない。しかし、新聞などで報道される高速通信化の流れが、“15Mbpsぐらいじゃ中途半端”という意見が出る背景にある。

 このように、もともと潜在的にFTTB化の素養がある集合住宅で、なおかつブロードバンド化への機運が高まっている時期とも重なった。管理組合への「インターネット接続インフラに関して整備を望む」という投書を複数受け、調査が始まった。

 導入の条件は4つ。

  • 1. サービス非利用者の費用負担が発生しない
  • 2. 167戸のスケールメリットを生かせるサービスであること
  • 3. 構内速度が高速であること
  • 4.異なる業者への切り替えを簡単に行えるように配慮する

 さて、もうお解りだと思うが、現状でこれらの条件を満たすのは、FTTB/VDSLだけである。HomePNAは2.0で高速化されたが、回線長に不安があり、また日本ではHomePNAに対応するエンドユーザー向けの機器(ルータなど)がほとんどない。イーサネットへのブリッジとして動作するVDSLモデムとの使い勝手の差は大きい。

 また、サービス非利用者の費用負担を発生させないためには、新しい信号線を構内に張る工事が必要になるサービスは難しい。たとえば、カテゴリ5のLANケーブルを全戸分に後から入れるのは、コストと管路(構内の配線スペース)の両面からみて、導入できるケースは少ない。既存電話線を用いるならば、VDSLがベストの選択肢になるだろう。

導入決定までの道程

 合理的に考えるとFTTBの構内インフラとしてVDSLが有効なのが明らかとはいえ、さまざまな人たちが済む集合住宅において、業者の選定を行い、最終的に住民の合意を得るまでの道程は決して短くない。

 経験者は、成功するために、自らが何らかの形で管理組合の運営に関わらなければならないと話す。ただ、理事になってしまうと、さまざまな決議のため多くの時間を割かなければならなくなる。そこで管理組合の中でも、特に専門的な分野について検討を行う「委員会」を設置し、そこで話を進めることを勧めるという。

 特に、将来の業者切り替えをスムーズにするため、どのような事を考えなければならないか、どんな業者を捜せば良いのかなど、基本的なことを見通して考えられる人材は、たいていの場合、自宅でブロードバンド接続を必要としている。そうした人材が、手軽に自らの希望でもあるブロードバンド環境整備のために力を発揮できる環境を与えるわけだ。

 わが家のケースでカギとなったのは、やはり特定業者への依存をあらかじめ否定し、現時点でインターネット化を進めることの抵抗感をなくしたことだと思う。実はFTTB/VDSLと同時に、J-COMによるCATVの導入も並行して進められ、現在はNTT-MEの「WAKWAKピアル」と「J-COM Net」を必要に応じて選ぶことができる(もちろん、同時に利用してもいい)ようになっている。

 また、あらかじめMDF室の広さや各端子盤の配置、サイズなどを調べておき、19インチラックをいくつ配置できるかをチェックした。通常、電話用の光収容装置やMDFなどは壁に埋め込む形で配置されており、場所はさほど多く取っていない。しかし、これらのドア開閉に干渉しないように配置しようとすると、広いMDF室に見えても意外に置ける数が少なかったりするものだ。


かなり広い部屋だが、光アクセス装置の開閉パネルとの干渉を避けるため、無駄なスペースも多くでている

 いくつのラックを配置できるかを確認し、業者に対してきちんと設置場所を指示しないと、余裕を持たせた配置にしてしまい、思ったほどラックを配置できない(つまり複数業者が同時に入れない)という問題を抱える。もし、1つしか配置できない場合は、業者変更時に既存業者の設備を撤去しなければ、次のサービスを入れることができない。一度、業者を固定すると、その業者を使い続ける人たちがいる限り、一方的に業者を変更できなくなる。最低でも2業者が同時にサービスできること、そしてFTTB/VDSLとCATVなど複数種類のサービス混在について考え、きちんと住人に対して説明を行えば、賛同を得やすくなるはずだ。

WAKWAKピアルの使い心地

 VDSLをメニューに持つ集合住宅向けのFTTBサービスを提供している企業は、今回導入したNTT-MEのほか、ファミリーネットジャパン、パワーバンドなど数社がある。その中でWAKWAKピアルに決定した理由は、各戸からのアンケート結果でNTT-MEが支持されたからだ。

 その理由までは調査していないが、WAKWAKピアル利用者はIP電話のWAKWAKコールを、月額基本料なしで利用できる点が支持されたようだ。実はファミリーネットジャパンの「CyberHome」とWAKWAKピアルは、いずれもインフラ部分をNTT-MEが担当しており、利用できるコンテンツなどもほぼ同じだった。

 そのWAKWAKピアルだが、現在加入者は45戸前後。建物までの回線はBフレッツ、韓国GigaLinkのVDSL装置を利用している。このVDSL装置は600KHz以上の帯域だけを利用するため、ISDN回線とも信号を重畳できる。NTT-MEの資料によると、VDSL回線の速度は15Mbpsの対称型、装置のスペック上では最大18Mbpsで路線長1.2キロまでをカバーできるという。


GigaLinkのVDSL装置が使用する周波数帯

 実際、サービス開始直後は非常に高速で、下り速度は実効値で12Mbpsを超えていた(ユーザーが増えたためか、現在は8Mbps程度)。上りに関しても、10Mbps近い値を記録したこともあったのだが、(何故か)すぐに遅くなり現在は最大で5Mbps、平均的には3.5Mbps程度の上り速度が出ているようだ。実効値の計測では2Mbpsを下回ることもある。

 これがわが家の回線だけの問題なのか、それとも単に上流のBフレッツ回線(もしくはNTT-MEへのゲートウェイ)が詰まっているだけなのかはわからない。いずれにしても、ADSLに比べて上り方向の増速は顕著だ。

 また、経路遅延が非常に小さくなった。たとえばZDNetのWebサーバまでは終日4ミリ秒程度の遅延しか発生しないし、都内のホットスポットから自宅のPCに接続する場合も速い場合は6〜8ミリ秒、遅い場合でも12〜15ミリ秒程度の遅延で済んでしまう。このため上り回線の高速化と併せ、自宅PCへのリモートデスクトップ接続やVPN接続時のネットワークレスポンスが大きく改善された。

 一方、不便になった部分もある。WAKWAKピアルは認証装置をMDF室に置き、HTTPアクセスを検出するとログイン画面を出し、ブラウザからログオンしないと一切の通信を行えない仕組みになっている。また30分以上無通信が続くと自動的に切断されてしまう。

 インターネットからのアタックを遮断するためとの説明を受けたが、どうも納得がいかない。そもそも、なぜブラウザベースの認証なのだろう? 30分という切断時間も短い。自宅LAN内のサーバに、定期的に自分のWebページにアクセスさせることで切断を回避するようにしたが、これならば自動ログインができるだけPPPoEの方がはるかにいい。

これからのこと

 さて、毎回これが最後だろうと思いつつも続いている?わが家のブロードバンド化計画。OCNエコノミーの128Kbpsベストエフォートだった頃から比べると、泣けるほど恵まれた環境になった。

 昔、JASRACに取材した時に「VPNでしか接続できないサーバにファイルが置かれていても、公衆への送信に当たらない」という解釈を示され、それ以来やってみたいと思っていたことがある。ホットスポットで、インターネットを通じて自宅の音楽ライブラリを演奏するという、非常に馬鹿馬鹿しい(?)実験なのだが、ADSLの時には音が途切れていたものの、今ではキレイに再生できるようになっている。(もちろん、いつもはそんなことをしているわけではないが、インターネットを介したシームレスなデバイスの接続という意味で将来的な可能性を感じる)。

 ただ、ここから先、100Mbpsに近付くのはLAN設備のない集合住宅ではかなり難しくなってくる。今以上に高速化する手段は、さらに高速な構内速度をサポートするVDSL業者への切り替えを行う、Bフレッツ回線の品質を上げてもらう(WAKWAKピアルで利用しているBフレッツが、どのサービスかは公開されていない)、いっそのこと光ファイバーを各戸に引くためのルール作りを進めるなど、限られた手段になってくる。

 おそらく、利用アプリケーションが変化するほどに高速化するためには、FTTBからFTTHへの移行が必須になるだろう。つまり各戸に光ファイバーを通すための工事が必要になる。大規模な集合住宅でFTTHを利用する際の問題で一番大きなものは、マンション内の通信線を通している縦溝にどれだけの空きスペースがあるかである。

 全戸分の光ファイバーを通せればいいが、そうではない場合には、どのような対応にするかが一番問題となる。早い者勝ちで引きたい人が引く、全戸抽選で光ファイバーの利用権を導入可能な数だけ分配する、全面的に禁止する、といった対応が考えられる。いずれにしろ、将来に向けて何らかのルールは必要だ。

 住人の大部分が賛成できるルール。それを作るのは難題だが、それを解決することが出来たとき、あるいはもう一度、集合住宅のFTTH化をテーマにわが家の報告を行うことになるかもしれない。



関連リンク
▼ WAKWAKピアル

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[本田雅一, ITmedia]

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