JR北海道からSL拝借、東武鉄道に「ビジネスチャンス」到来杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)

» 2015年08月14日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

JR北海道はSLを走らせる余力がない

 C11形207号機は、JR北海道で人気の蒸気機関車だった。JR北海道はC11形を2台運行しており、もう1台はC11形171号機だ。運行区間は函館本線の函館駅〜森駅間(SL函館大沼号)、札幌駅〜蘭越駅間(SLニセコ号)、富良野線の旭川駅〜富良野駅間(SLふらの・びえい号)、釧網本線の釧路駅〜川湯温泉駅間(SL冬の湿原号)などだ。2台とも老朽機だし、点検整備の都合もあって、交代で走らせていた。ファンサービスで2台とも連結する場合もあった。

 しかし、JR北海道はもはやSLを走らせる状況ではなくなってしまった。近年の事故や不祥事を受けて(関連記事)、2014年に国土交通大臣から事業改善命令を受けた。この中で諮問委員会の設置を求められ、JR北海道再生推進会議が発足。2015年6月に「JR北海道再生のための提言書」が提出された。その内容は「安全投資を最優先とせよ」、そのために「事業の選択と集中が必要」である。赤字ローカル線から撤退せよ、観光列車を見直せという、大変厳しい内容だった。

 その結果、JR北海道は先日、留萌線の留萌駅〜増毛駅間の廃止を表明(関連記事)。ほかにも路線の存廃を検討すると含みを持たせた。また、利用客数が極端に少ない駅の廃止も沿線自治体に通告している。その中には「秘境駅」として鉄道ファンに人気の駅もある。鉄道ファンとしてみると、北海道から魅力のある路線や駅がどんどん減っていく事態になっているのだ。

 JR北海道は安全投資に値しない路線や駅を撤収する一方で、利用客の多い幹線系統は安全設備に資本投下する。函館本線には新型のATS(自動列車停止装置)を導入すると決まった。しかし蒸気機関車に新型ATSを搭載して走らせるための費用は、機関車の改造を含めて数億円と報じられている。だからJR北海道は函館本線からのSL運行撤退を決め、C11形207号機が引退を強いられる事態になった。

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