海外では図書館は本を読む場所だけではなく、地域の人々が交流して、文化を育成する場としても機能している。日本人が大好きなスウェーデンなんかでは、図書館内でゲームがあったり、フォークダンスの場にもなるらしい。だから、蔵書の数や内容も大切だが、なによりも「人が集う」ということに重きを置く。
そういうことを考えた時、会社を退職したシニアと、受験生が開館とともに席を陣取るような今の図書館に未来はあるのかという問題がある。「本を愛する一部の市民がタダで豊富な蔵書が読める施設」では、財政が苦しくなれば利用者数と行政コストを天びんにかけて少しづつ予算を削っていくしかない。それを民間へ丸投げすれば当然、サービスも劣化の一途をたどる。
いろいろな問題が指摘されているが、武雄市図書館が「これまで図書館に来なかった人」の足を向けさせて地域活性化にも貢献したのは紛れもない事実だ。「人が集う図書館」というひとつの方向性を示したのは素直に評価すべきではないか。
反対派のみなさんは「みんなの図書館はみんなでつくろう」とシュプレヒコールをする。おっしゃる通りだと思うが、こういう方たちが言う「みんな」と、行政や企業の考える「みんな」は、誰を指すかが全く違う。この悲劇的なすれ違いから「図書館戦争」は起きていると言っても過言ではない。
不毛な争いに終止符を打つためにも、「みんなが集う図書館」というものを、そろそろ真剣に考えるべき時期なのではないか。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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