甲子園で準優勝した仙台育英の監督がグラウンドに顔を出さない理由高校野球に学ぶ組織マネジメント論(2/4 ページ)

» 2015年11月19日 07時00分 公開
[鈴木亮平ITmedia]

カリスマ指導者は必要ない

 仙台育英野球部では、監督が前面に出て指揮を取ることをあえてしない。それは、今の時代背景が起因していると佐々木監督は語る。

 「高度経済成長期はカリスマ指導者が育ちやすい時代だったと思う。全員が同じ方向を向くことが良いとされていて、日本が“十人一色”を目指した時代だった。それから次第に“十人十色”の人それぞれの時代に変わり、いまでは、偉い人や上司についていかなければならないという時代ではなくなった。それは高校野球でも同じ」

photo 佐々木順一郎監督。高校野球の3年間は選手が将来“良い親父”になるための修行だという

 以前は佐々木監督も前面に出て指揮を取っていたが、今は昔と違い“俺についてこい”というスタンスでは、組織はまとまらず、むしろ不満が生まれてくるという。その経験から「今の時代にカリスマ指導者は必要ない」と考える佐々木監督は、できるだけ選手主導のチーム運営を行う。

 まず、運営に関する役割を決めていくのも選手たち自身だ。仙台育英では、全体の指揮を取る助監督、主将、マネージャーの他にも、グランド整備担当、道具管理担当、部室掃除担当、一年生教育係といったさまざまな役割を作り、100人を超える部員全員が役割をもっている。

 選手たちは時間をかけて話し合い、誰が適任かを決めていくのだ。佐々木監督は「立場が人を変える。1人1人に役割を持たせることでチームを支える戦力に変わってくれる」と語る。

 また、助監督は現場全体の指揮を取る重要な役割のため、“プレイヤー”と兼任することができない。マネージャーも、来客対応などのさまざまな仕事をこなすため、助監督と同じくプレイヤーを引退することになる。全員レギュラーとして活躍するために入部しているので、容易には決まらない。

 あえて選手の中から選出するのは、自分が組織の一員としてどう貢献していくのかを本気で考えさせるためだという。そして、その真剣な話し合いを通じて、チーム目標の再確認や、自身の役割の自覚、チームの一体感、結束力を高めることができるのだ。

 日々の練習メニューに関しては、最初に監督がたたき台を作り、あとは選手たちに話し合いで決めてもらう。監督は選手たちが悩んでいる部分に“アドバイス”をしたり、選手から出てきた新しい案に対して“承認”をしていく。「選手が主体的に動ける環境を整えるのが監督の仕事」だという。

photo バックネット裏にある監督室から選手を見守る

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